2018年9月 イベント

2限目 2018年9月17日(月・祝)13:00〜14:30

あえて語ろう、ハードワーク論

トンプソン
ルーク

1981年4月16日生まれ
近鉄ライナーズ所属
ポジジョン:ロック

大西将太郎

1978年11月18日生まれ
ラグビー解説者・コーチ

パフォーマンスを最大化させるための準備と集中

柿木英人さん(聞き手) 日本は今、働き方改革が経済界のひとつの大きなテーマです。RPAやAIなど、さまざまな取り組みが進む中、一生懸命働くより、スマートに働こうというような傾向になっていることを少し危惧しています。ですので、あえて今日はハードワーク礼賛をしてみようかと。早速ですが、トンプソン選手を語るとき、多くの人が「ハードワーク」という言葉を使います。南アフリカを破るなど3勝をあげた2015年のW杯での献身的な数々のタックルも、ハードワークのひとつですよね?

トンプソン選手 僕がタックルやセットピースをすることで、チームのためになる。僕は、僕の仕事をしているだけです。

大西さん こういう細かなところで働くフォワードの選手がいるからこそ、トライを取る選手やキックを蹴る選手が生きてくるんです。僕はトンプソン選手をトモって呼んでるんですが、トモは、周りの人間を「自分もやらなければ」とか「トモがここまでやるなら」と思わせてくれるんです。

柿木さん 重要な役割ですね。

大西さん ラグビー界では、痛いことを率先してやる選手が仲間から尊敬されます。だから、チームメイトはみんな、トモのことを尊敬してます。

柿木さん では、なぜそういうプレーができるのかを探るために、普段の過ごし方を伺いたいと思います。

トンプソン選手 土曜日が試合だったとして、日曜日はフィジカルとメンタルのリカバリー。月曜日から次の週の準備をします。前の試合のレビューや次の相手の分析などミーティングをしてから、練習を開始。火曜日はウエイトやハードな体がぶつかる練習をして、水曜日はリカバリー。木曜日も朝からウエイトをして、午後は練習。金曜日は短めの練習をします。

柿木さん 試合の翌日はとにかくリラックスということですか?

トンプソン選手 オンとオフのバランスが大事。メンタル切り替えのために、ファミリー同士で遊びに行ったり、ゴルフしたりします。

柿木さん なるほど。試合翌日はまずしっかりリラックス。そこからプランを立てて、徐々に次の試合の準備を進めて、ハードな練習をしたら、1回オフが入るんですね?

トンプソン選手 そうです。

柿木さん そして最後に、試合に向けてピーキング。試合直前の日はフィジカルというよりメンタルの部分で、集中を高めるという感じでしょうか?

トンプソン選手 試合の日のパフォーマンスが一番大事だから、そこにピークを持っていきたい。その前にプランニングと準備をしていれば、自信を持って試合に臨めます。

大西さん ラグビーの特徴として、試合前日に2時間、3時間の練習は絶対しないですね。

柿木さん 最大のパフォーマンスを発揮するためには、きちんと準備をし、集中すると。パフォーマンスのときは、やはりフォーカスをすることが大事だということでしょうか?

大西さん 何が起こるかわからないないので、そういったところを想定してしっかり準備しておく。そして、その時が来たら覚悟を決め、しっかりと自信を持ってやるっていうことを、僕はW杯でも学びました。

柿木さん 大西さんの集中力で言うと、やはり2007年のカナダ戦でのコンバージョンキックですよね。あれで日本代表のW杯連敗記録が止まりましたから。

トンプソン選手 あれは素晴らしいキックでした。一番プレッシャーのかかる、とても難しいキック。たくさん練習していたからこそ、最後のチャンスで、いい結果が出せたと思います。

大西さん 僕は正キッカーじゃなかったんですが、キックのコーチがいるときにはいつも聞きに行って、教えてもらっていました。3番目であろうが何番目であろうが、自分に回ってきたときに自信を持ってできるように準備しておこうと思っていたんです。それが、結果として表れたのかなと。それに、あのボールにはみんなの気持ちが乗っていましたから。

ハードワークを支えるのは、気持ちの強さ

柿木さん トンプソン選手のプレーを見ていると、チームのためということは非常に感じるんですが、「目立ってやろう」とか「ここで自分が」ということはあまり感じません。このひたむきさというのは、普段から何か考えていらっしゃることはありますか?

トンプソン選手 僕のモチベーションはいろいろあります。日本代表のプレーのときは、まずはチームメイトと一緒に試合に勝つこと。だから、僕の仕事はチームを助けること。それが一番。国、家族、チームメイト、個人、いろいろなモチベーションがある。でも、一番大事なのは勝つこと。なんでもやりたいは駄目。絶対に勝ちたい。

大西さん 勝ちたいという気持ちは、本当にアスリートにとって非常に大事なことですし、それはモチベーションにもなると思います。あと、ラグビーはいろんなポジションがあって、それぞれの仕事が明確です。そのチームにとって、自分がどういう仕事をすべきか。それを遂行してくれるのがトモ。トモを見て、みんなも自分の仕事をしなければと思うんです。トモは、みんなのお手本です。

柿木さん バックスラインから見ていて、その信頼感は断トツですか?

大西さん 断トツですね。だからトモは、誰が監督でも必要とされるんです。僕は、トモが日本代表のスタンダードを決めたと思っています。日本のラグビー界にとって、これぐらいハードワークをしないといけないという基準は、ルーク トンプソンと大野均。彼ら以上に働かないと、日本代表にはなれないというのは明確だと思います。

柿木さん でも、多くの人が「勝ちたい」「成長したい」と思っていても、行動がうまく起こせなかったり、自分で自分を諦めてしまったりしてしまう。そこから抜け出すには何が必要でしょうか?

トンプソン選手 負けたくない。だから、相手よりハードワークして、勝つチャンスをつかむ。質問の答えになってないかもしれないですけど、やっぱりメンタルが大事です。

大西さん トモ自身も、外国人選手の中では背も大きくないですし、自分に足りないところっていうのを理解している。だからこそ、どうすれば相手に勝てるのかをすごく考えているんです。そうなってきたら、ハードワークするしかない。人一倍タックルするとか、人一倍走るとか、体力がなくても、メンタルでカバーができるので。自分が持っていない部分を気持ちでカバーできるのも、ラグビーだと思います。

ただ揃えるだけでなく、同じビジョンを持つ

柿木さん 今ダイバーシティが日本でも流行っていて、いろんなタイプの人を揃えておくことが組織の強さにつながると言われていますが、そのポイントをここから探っていきたいと思います。トンプソン選手は近鉄ライナーズでキャプテンを務められていますが、外国出身の方がチームをまとめるのは大変ではないですか?

トンプソン選手 僕は日本語があまり上手じゃない。だからキャプテンをするのは、すごく大きいチャレンジです。でも僕は、リーダーシップはアクションが大事で、言葉はその後だと思っています。だから、僕の仕事は、まず自分のベストをラグビーで出すこと。

柿木さん 大西さん、いかがですか?

大西さん トモは本当にそういうリーダーシップの取り方をします。自分の背中を見せて、アクションを起こし、それを見て人がどう感じ取るか。トモはタックルや体が痛いことを自ら率先してするので、仲間から信頼されますし、その後に言葉を発すると説得力もある。

柿木さん ダイバーシティを意識されることはないですか?

トンプソン選手 ダイバーシティは難しいです。みんな個人のモチベーションが違う。生まれた国が違えば、文化も違うし、モチベーションも違う。そのグループが同じ方向に進むのはすごく難しい。でも、その目標を決めることが一番大事です。

大西さん ビジョンをクリアにするってこと?

トンプソン選手 そうです。もし経営のビジョンだとしたら、モチベーションはいろいろあるけど、みんなが同じ方向に向かう。一緒に準備をして、同じビジョン、同じジャーニーで、同じ場所に行く。

柿木さん 私がダイバーシティの力を感じたのは、W杯のときです。「歴史を変えるのは誰よ」という名言を吐かれたんですが、覚えてらっしゃいますか?

トンプソン選手 フィーリングで言ったんですが、覚えてます。

柿木さん この「歴史を変えるのは誰よ」という発言は、モノカルチャーの日本の選手の中からはなかなか出てこないと思うんです。こういう言葉が出てくるのが、あの日本代表チームのダイバーシティの力ではないでしょうか?この「歴史を変えるのは誰よ」という発言は、モノカルチャーの日本の選手の中からはなかなか出てこないと思うんです。こういう言葉が出てくるのが、あの日本代表チームのダイバーシティの力ではないでしょうか?

トンプソン選手 そうかもしれません。色んな国から来ている選手がいて、それぞれが持っている歴史は違うけど、その瞬間はみんなが同じ目標で、同じ気持ち。だから、新しい歴史つくる、すごくいいチャンスだったんです。

大西さん 全員が「日本のために」という、同じモチベーションだった。

トンプソン選手 自分のためじゃなくて、チームのためだけじゃなくて、あのときは日本のため。

大西さん リスペクトを取り戻したい。あの言葉には、トモが2007年と2011年で勝てなかった悔しさも入ってると思うんです。日本の歴史を知っていて、そのために何をしなければいけないのかを考えて、あの言葉が出たと僕は思っています。

柿木さん あの気持ちが高ぶっている状況で、「歴史」という言葉はなかなか出ませんよね?

大西さん 勉強も経験もしてるから思わず出たんでしょうね。パワーフレーズは、そういったところから生まれますから。この言葉を聞いたら、みんな震えますよね。

柿木さん こういう言葉がポンと入るのが、本当にダイバーシティの力。ダイバーシティが力を発揮する瞬間って、こういう瞬間なんだろうなと感じました。

大西さん トモのあの言葉で、間違いなくチームは締まったと思います。

SHARE

このサイトはスマートフォンの
画面を立ててご覧ください。