2018年9月実施のイベント

3限目 2018年9月18日(火)19:00〜21:00

ラグビーが教えてくれた可能性を可能に変える力

麻生泰

1946年8月28日生まれ
麻生セメント株式会社代表取締役会長

玉塚元一

1962年5月23日生まれ
株式会社デジタルハーツホールディングス
代表取締役社長CEO

岩渕健輔

1975年12月30日生まれ
日本ラグビーフットボール協会 理事
男子セブンズ日本代表ヘッドコーチ

紹介

柿木英人さん(聞き手) 簡単にお三方を紹介致します。まず、麻生セメント株式会社代表取締役会長、九州経済連合会会長の麻生泰さんです。1979年以来長年にわたって麻生グループを率いてこられ、2010年から会長を務められています。ラグビーに関しては慶応高校時代に国体で2回優勝、慶応大学でも4年生の時に大学選手権で優勝されています。また、その後留学したオックスフォードでもプレーされたと聞いております。ポジションはフランカーですね。現在は2020年東京五輪・パラリンピックの理事も務めれおられます。

続いて玉塚元一さん。デジタルハーツホールディングス代表取締役社長CEOでいらっしゃいます。やはり慶応のラガーマンで、1984年大学選手権で準優勝。ポジションはやはりフランカー。ご存知の通り、ファーストリテイリングやローソンなど数多くの企業の経営に携われた、日本を代表するプロ経営者のお一人です。

最後は岩渕健輔さん。Team Japan 2020 男女7人制日本代表の総監督です。青山学園から神戸製鋼、そして英ケンブリッジ大学に留学され、同大学代表に与えられる「ブルー」の称号を持っていらっしゃいます。英サラセンズやフランスリーグでもプレー経験のある日本ラグビー界きっての国際派で、2012年から2015年は15人制日本代表のゼネラル・マネージャーとしてイングランド大会での大活躍を支えられました。

本日は本当にすごいメンバーにお集まり頂きましたが、まずはアイスブレイクとして岩渕さんに口火を切って戴きたいと思います。
昨日、男女ともセブンズの2020東京五輪出場が確定しましたね。おめでとうございます。セブンズの調子はいかがですか。

岩渕さん ありがとうございます。セブンズの調子はとてもいいです。ラグビーの東京2020オリンピック競技大会の出場権獲得は、これまでの男女7人制日本代表チームが残してきたパフォーマンスによるものであると思っております。これは今のチームというより、日本のラグビーがこれまでやってきたことが世界に認められたということなので、2020年にはいい結果を出したいと思います。

ビジネスとラグビー

柿木さん それではいよいよビジネスの話に移りたいと思います。まずはお三方から、ラグビーをやってきたことが経営に活きた、といったことがあればお話し戴ければと存じます。麻生さんいかがですか。麻生グループは創業が1872年、明治5年という老舗中の老舗企業です。日本ラグビーよりも長い歴史のある企業を率いておられるわけですが…

麻生さん 確かにもう150年近い歴史がありますね。筑豊というところで石炭で財を成し、それを我々3代目、4代目が維持拡大をしていこうということです。実は私は三男で、太郎というのが居て、次郎というのが居て、そして私なんですが、太郎は社長をしていたんですが、ご存知の通り政治の世界に行き、次郎は一番出来が良かったんですが、ヨットの事故で亡くなってしまったんですね。それでサラリーマンをしていた私に帰ってこいということで。私はまあ親の七光りで33歳の時に会社を継いだんですけど、ただ、ラグビーでも主将をやっていたので、人を引っ張っていくというか、まとめていくということに関しては、ある程度センスがあったんじゃないでしょうか。それ以上に麻生グループは福岡県飯塚というところで活動をしているんですが、「絶対に飯塚を変えてみせる」「ああ飯塚ってこんな町になったんだな」という風に、やるからには絶対に勝つ、勝ち続けるという思い、或いは使命感はラグビーで培ったものじゃないかなと、ラグビーが役に立っていると思います。

柿木さん 次に玉塚さん。玉塚さんは麻生さんと対照的に様々な企業のかじ取りをされてきました。特に小売り系が多いと思うのですが、特にローソン時代は加盟店の皆さんから絶大な人気があったと伺っています。

玉塚さん 今日は小難しい経営の話でなくて、ラグビーの話だというので、すごいモチベーション上がって来ているんですが、無理やりラグビーを経営につなげるわけですね(笑)。隣に慶応ラグビーの一番偉い方が座っていて、しかも同じポジション、これまでも大変お世話になっているので非常にやりにくいんですが…。
僕は1985年に慶応を卒業したんですが、慶応というのは明治や早稲田と違って、高校でスターだった花園組(東大阪の花園ラグビー場で開かれる高校全国大会で活躍した選手)があまりおらず、(慶応高校など)下から来た人間と、受験で入った(ラグビーは)そこそこという人間が集まって、とにかく早稲田、明治を倒す、今なら帝京もでしょうけど、という目標を立てて厳しい練習をするんですね。「地獄の山中湖」と言って、山中湖の合宿所で、3週間くらいですかね、早朝、午前、午後と、今の時代なら間違いなくSNSで問題視されるような厳しい練習を繰り返し、何度も泡を吹いて倒れるくらいハードなわけですが、山中湖の合宿で最後まで立っていられたメンバーが秋の試合に出るという具合でした。下手くそながら、何とか早明に伍していくというので、玄人のファンには結構慶応ファンが多いんですが。私が4年の時には早稲田にも明治にも勝つことができて、対抗戦では優勝したのですが、大学選手権では故平尾さんや大八木さんのいる同志社に負けました。ただ、僕の中では「努力すれば巨象も倒せる」という自信ができたのが、ラグビーをやっていた中では何より大きいです。慶応には福沢諭吉先生と同じくらい有名な小泉信三先生という方がいらっしゃって、この方が「練習は不可能を可能にする」ということをおっしゃっているんですが、練習、努力は不可能を可能にするということを体感できた。スタープレーヤーがいなかったチームでも目標を掲げて努力をすれば巨象も倒せるということを体現できたのが、僕の中ではラグビーをやっていた一番の財産かなと思います。

柿木さん では岩渕さん、経営者ではありませんが、日本代表のGMというポジションはほぼ企業経営に近いものがあるのではないかと思います。いかがでしょうか。

岩渕さん 2012年の就任の時は、とにかく、選手・スタッフがワールドカップまでの4年間どうやっていくのか、考えるのが大変でした。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチからの要求も多かったですし、1、2年ならまだしも、4年間は大変だよと、他の国のスタッフからも言われました。私自身、プレーヤーとしての経験もあっていわゆるラグビーの常識というのはあるのですが、日本は強豪国ではなかったですし、ラグビーの伝統的なセオリーから外れていかないと勝てないチームでしたので、そういう発想の飛躍とか、ラグビーでこれはこうだよね、といった前提条件をまず疑ってみる、そういったことが代表のGMを4年間やってみて役にたったかなと思います。

柿木さん ちょっと突っ込んでもいいですか。エディーコーチの厳しさは有名ですが、選手とのクッション役といったこともあったんですか。

岩渕さん いえ、選手とのクッション役は最初から心理学の先生なども入っていたので、その先生がリーダーを上手くまとめてくれたり、エディーとの間に入ったりしてくれたので。いいスタッフに恵まれたと思います。エディーとは毎週月曜日の朝7時半から外苑前のオフィスの近くの喫茶店でミーティングをしていたんですが、毎回のように喧嘩になりました。喧嘩になる理由は、エディーからいろんな要求があるんですが、最後は必ず「だから日本は勝てないんだ」となるんですね。そうするとスタッフがエディーとのコミュニケーションを避け始めてしまう。そのコミュニケーションを避けないようにするのが一番難しかったなと思います。

柿木さん ありがとうございました。さて、今日はビジネスとラグビーをつなぐ幾つかのテーマを設定しています。まず、ラグビーというスポーツは15人が別々の役割を持って、それをまとめていく多様性が特徴です。ところが、最近のラグビーはプロップが走ったり、パスしたり、バックスがラックなどのコンタクトプレーで活躍したりと、マルチタスクを求められる傾向が強まっています。そこで強い組織作りのためにどんな人材が必要か、というアングルで話を伺いたいと思います。まず、麻生さん、麻生グループにはたくさん教育関連の事業もありますが、いかがでしょうか。

麻生さん 大事なことは何でもリーダーだと思いますね。こいつについて行こうという気にさせるリーダーを選ぶことが重要です。ラグビーっていうのは良くできていて、自然とキャプテンというのが生まれてくる。こいつについて行こうという後姿を持った男がリーダーになっていく。企業においてもその組織のリーダーを選んでいくというのが、その選考こそが企業経営者の役割だろうと思います。リーダーがはっきりとした目標を定め、例えば慶応ラグビー部では、11月に入ると打倒早稲田を掲げて12月23日の早慶戦に向かっていったわけですが、企業においても3年後にどうするといった、ストレッチの効いた目標を立て、それを言うだけではなく、掲げ続ける、そういったことが重要でしょう。もちろんふらふらする人間もいるでしょうが、それを無視するのか、巻き込んでいくのか、そういった判断も含めラグビーと企業は似ているんじゃないかと思います。

柿木さん 麻生さんは1990年にグループの経営理念「We deliver the Best」を掲げられました。

麻生さん Bestというのは測れないんですね。Bestには今3位だとか8位だとか点数をつけられないんです。我々病院だろうが、学校だろうが、セメントだろうが、Bestを提供するというプライドを持ってやっていこうということです。元々は米国の提携病院が持っていたスローガンなんですが、いい言葉なのでそれを使っていいかと許可を得て採用しました。We deliver the Bestはエンドレスのレベルアップですから、数値化できないのもいいなと思って選びました。

柿木さん 38年間同じスローガンを掲げているのはすごいですね。玉塚さん、組織作りについてどうですか?

玉塚さん ラグビーは僕らの時代と違って、スポーツとして変わってきている。組織論からするとすごくヒントがある。昔はプロップがボール持って走ったら怒られたものですが、今はプロップだろうが、ロックだろうが、自由自在にボールを持って走りまわる、ものすごくマルチタスクになっていますよね。例えば、ラグビーとアメリカン・フットボールを比較すると、アメフトはジョブスクリプションがはっきりしていて、誰がパスをして、誰がパスをキャッチをして、だれがタックルするって決まっています。ディフェンスとオフェンスも決まっている。また、一つ一つプレーが止まって、その都度、ここではこんなパス、ここではこんなランと、こまかく役割分担されている。非常に機械的にストラクチャーされていて、CEOである監督がフィールドのすぐ横にいて、一糸乱れず展開する。一方、ラグビーは攻撃と守りも瞬時瞬時に変わりますし、そこにいた人間がボール持って走ったり、ディフェンスしたり、体が大きいとか、キックがうまいとかそれぞれの個性を生かしながらもマルチタスクで現場判断で動くというのが特徴です。

もう一つヘッドコーチの話だと、ラグビーの場合、試合の直前まで「今日はこういう攻撃をしよう」「今日はここに気を付けよう」と言った後は、遠い観客席に座って見守るしかないんですよね。2015年の日本代表対南アフリカ戦でも、(グラウンドから遠く離れたコーチボックスにいた)エディー・ジョーンズはペナルティー・キックで同点にしろって言っていたのを、グラウンドにいたリーチ・マイケル主将が選手の息遣いとか自信とかを感じて、ここはスクラムだと判断して、奇跡の逆転トライが生まれるわけです。

今の時代はいろんなことが混とんとしていて、確かに一人の優れたCEOが居て、ジョブ・ディスクリプションを決めてわっとやれば効率はいいかも知れないが、それだけでは強い組織はできないと思っています。どんどん環境が変わるなかで、皆がマルチタスクであるべきだと思うし、CEOも大事なんだけど、もっと大事なのが現場のキャプテン。先日スティーブ・ハンセンNZヘッドコーチと話した際におっしゃっていたのは、「全員がキャプテンというのが理想の組織」ということです。もちろんリーチ・マイケルのようなまとめ役も必要ですが、全員がその瞬間にベストな選択は何かと判断して、それが有機的につながっていく。でも、ヘッドコーチが示すチームとしてのビジョンや確固たる背骨みたいなものもある。それが理想の組織かと。遂にラグビーの時代が来ましたね(笑)

いやいや、もちろんアメフトも来てます。

でも、日本的な阿吽の呼吸、現場の吐息、感覚、状況判断、みんながキャプテン、皆さん、ついにラグビーが来ましたよ(笑)

柿木さん 続いて岩渕さんにも伺いたいのですが、マルチタスクという観点で言うと、今総監督をされている7人制は15人制に比べて圧倒的にその色彩が強いと思います。運営チームを作る時のセレクションなどでも考えることが違うと思うのですが。

岩渕さん セブンズの場合、五輪などの際は選手以外で選手村に入れるのが3人くらいしかいないので、ヘッドコーチとトレーナーとマネージャー。それぞれがビデオとったり、トレーナーやったり、広報やったり、本当の意味でマルチタスクじゃないと回りません。15人制の方は2015年大会でもスタッフ20人くらいいたんですが、一方で7人制の方は3人、多くて5人なのでかなり状況は違いますね。ある特定の分野に長じた人間が必要という部分はあるのですが、本番でその人間が現場に入れないというケースもままあるので。15人制の時は、極めて限定的なここだけでも貢献してほしいという選び方ができるのですが、7人制は本番を考えると難しいですね。

選手に関しても、今までラグビーは五輪スポーツでなかったので、ラグビーだけで考えていればよかったんですが、日本選手団の一員として一緒に動くとなると、そうも行かない。どんな環境でも実力を発揮できる選手が必要になりますね。

キャプテンシーとは

柿木さん 玉塚さんがキャプテンシーの話をされたので、ちょっとそちらに話を広げたいのですが、リーダーシップ論というのは巷にあふれていますが、キャプテンシーというのは、ビジネス界であまり語られていないように思います。リーダーシップとキャプテンシーの違いについて伺いたいと思います。

麻生さん キャプテンシーは真剣勝負ですね。リーダーシップはロングタームでもあり得ると思うのですが、キャプテンシーはその場その場の最終判断を下す。迫力っていうか、気合っていうか、緊張感というか、そういうものを伴っている。リーダーっていうのはそれほどの緊張感はないけれど、もう少し中長期の目標設定というか。ただ、リーダーもキャプテンも後姿の美しさというか、ついて行こうというようなものは持っている必要があると思います。キャプテンシーには現場の緊張感を感じますね。採用の時でも、こいつはキャプテンやってたならいいんじゃないか、といったことはあります。

玉塚さん 麻生さんのおっしゃる通りだと思います。僕の中ではリーダーもキャプテンも共通ですが、敢えて言えばキャプテンはプレーをしながらのリーダーという感じかな。最近、常勝チームのキャプテンを研究している方の本を読んだら、偉大なプレーヤーが必ずしも名キャプテンではないということが書いてありました。素晴らしいキャプテンはそれぞれのプレーヤーがプレーに集中できる環境を作る、皆が嫌がるプレーを率先して恐れずにやる。必ずしもスタープレーヤーではないが、麻生さんがおっしゃるように、あいつが言うなら俺も頑張ってやる、決して派手ではないが、勝つために皆がそこへ向かうような環境を色々考えてとにかく作るというようなことではないでしょうか。ラグビーで言えば、転がったボールに誰よりも先に飛び込む、低いタックルで相手を倒すなど、皆が「あ、キャプテンがあそこまでやっているんだ」と感じて、チームの流れが変わるような。

ビジネスでもスタートアップの時や、僕がいるデジタルハーツは中堅ですけど、第二創業というような、これまでとは違う新しいことを創り上げていく時、リーダーが自ら動いていかないとスピードがあがっていかないんですね。ものすごいスピードで新しい事業を作っていくとか、イノベーションを起こしていくというような、今やっていることを大きく構造転換するような場合はキャプテンシー的なものが必要ではないかと思います。

一方、一般的にリーダーと言った場合は、百人のリーダーがいれば百様の答えがあって、それぞれの強み、弱みがあり、その企業が置かれた状況があり、そのそれぞれに最適なリーダーが必要ということでしょう。キャプテンシーという言葉は大好きで、今キャプテンシーというものが求められているとは思います。

柿木さん 常勝ローマ軍には百人隊長、千人隊長というのがいましたが、規模感で言うとどうなんでしょう。

麻生さん 魅力があって迫力のある人なら、400~500人はまとめられるでしょう。10人~15人の方が話は通るとは思いますが…。あの人を男にしたい、あの人の為ならといった惹きつけるものを持った人なら500人くらいは。サイズ的にはそれでは大きすぎるかも知れませんが。

玉塚さん 不思議なもので50人の組織があると、そこに自然にキャプテンのような存在が生まれてくるんですよね。一方、10人ずつの組織を5つ作ってもやはりそれぞれにキャプテンが生まれてくるんです。どっちがいい、どっちが強いは別にして。「ここの責任は全部みる」という組織をどうくくるかによって違ってくるんです。100人いたら10人リーダーが生まれそうなものですが、日本人は遠慮しがちだから、「やっぱりあの人がリーダーだよね」と、結局1人になる。リーダーを育成していくときには100人の組織を作るのではなくて、きっちりミッションを定めて、「ここが全部君の責任だよ」という逃げ場のない状況を作った10人の組織を10作った方がいいのではないか。その方が強いリーダーが10人出来て、その中からさらに半分が勝ち残ったとして、5人の強いリーダーができる。人材育成の面ではその方が良いのではないかと思います。

柿木さん セブンズの総監督をされている岩渕さんにも伺いたいのですが、7人制は正に全員キャプテンという感じでしょうか。

岩渕さん 7人制はプレーがほとんど止まらないですし、試合時間も7分ハーフで短いので、外側から何かを発するという展開にはならないんですね。ですから、グラウンドにいる選手がすべて自分たちで決めて動くことが求められるわけです。15人制ですと、プレーが止まった際はリーダーが出てきてキックしようとか、ゴールを狙おうとか判断をしますが、7人制の場合はすぐに判断してプレーを再開することが求められるので、一人一人がその局面局面でリーダーになる必要があると思っています。

2015年ワールドカップのチームでは4年間のなかで一度だけキャプテンが変わりました。特にキャプテンに求められるのは判断力とかまとめる力とか色々ありますが、一番は人間をみられるというのがキャプテンではないかと思います。リーチ・マイケル選手、その前のキャプテンの廣瀬俊朗選手とも本当に素晴らしいリーダーシップでチームをまとめてくれましたが、エディーは先ほど玉塚さんがおっしゃったように、5人くらいの単位でベテランのグループとか、ポジションのグループとか、ラグビー以外のグループとかを作って、それぞれにリーダーを置いて、リーダーシップを育成しようとしていました。そうやって最終的にはグラウンドの中でプレーする選手にリーダーシップを植え付けようとした訳です。そして最後、2015年ワールドカップの南アフリカ戦では、エディーの指示を結果として無視をして(スクラムを選択し)、その結果試合に勝ち、エディーも名将と言われるようになった訳です。

実はそれまでテストマッチの朝には必ずエディーとミーティングをしていました。しかし、南ア戦の日はエディーが当日の朝はリーチと話しをしたいからというので、前日にミーティングをしました。試合後にリーチと何を話したのかとエディーに聞いたら、「最後の判断はおまえに任せる」と言ったとの事でした。ただ、皆さんあまりご存知ないかも知れませんが、あの時、(コーチボックスで)エディーの隣にいたのですが、(スクラムを選択した選手に怒って)インカムマイクは投げつけるは、椅子はひっくり返すは本当大変だったので、本当にリーチに任せるって言ったのかな、とは思いましたが…(笑)

ワールドカップのちょうど一年前にリーチと話す機会があったのですが、エディーは本当に厳しいコーチで、その業績などからも、選手は対等に話ができない感じだったんです。そこでリーチはワールドカップの年に一人で海外に行ってプレーしたんですね。そこでNZ代表コーチのハンセンさんなどコーチとNZの選手がどんな関係なのかを実際に見てきて、それを日本代表にも持ち込んだんです。そのあたりからチームのムードは本当に変わっていきました。私はいい意味で、あの南アフリカ戦で選手たちが本当にエディー・ジョーンズから卒業したんだなと感じました。エディーの強いリーダーシップを学び、あの場面では選手自身が強いリーダーシップを発揮して試合できるようになったということではないでしょうか。一人一人のリーダーシップ、そしてリーチや廣瀬のキャプテンシーが大きくチームを変えるものだったなあと思っています。

組織の動かし方とは

柿木さん 少し話を変えたいと思います。組織作りから組織の動かし方の話です。ラグビーは戦略性の高いスポーツで、瞬時の判断力も求められる。高い強度のまま80分間の長丁場をどう使うか、点数が5点、3点、2点とあるので、そこも頭を使います。陣取りゲームといった側面もあります。ビジネスへの示唆も多いように思いますが、玉塚さん、陣取りゲームの側面もあるコンビニエンスストアを経営されていたましたが、いかがですか。

玉塚さん 無理やりつなげますね。真面目にお答えすると、やっぱり混同してはいけないと思います。僕は慶応卒業後、旭硝子という会社に就職しました。ラグビーを続けるという選択肢もあったのですが、一つはボロボロになるまでラグビーをやって“やりきった感”があった、もう一つはポイントポイントで人間は適切なピリオドを打つべきだという考えがありました。ラグビーとビジネスが決定的に違うのは、ラグビーは80分間で勝敗が決まる。一方ビジネスは、麻生さんのところは150年ですが、すごくロングタームで、長いレンジでこの企業が何を目指していくのかとか、ステークホルダーに何をもたらし、発展進化していくとか、あきらめずにずっと続けていく時間軸の違いが大きいと思います。ご質問はコンビニの陣取り合戦、何であんなに出店するんだっていう話なんだろうと思いますが、実はタイミングというのがあって、この3年間はこういう戦略だからそこから巻き戻してこうするといった長期的考え方があるわけで、当たり前ですが、ラグビー出身の社長だから気合いでといったことは全くありません。人手不足だからとか、この地域に集中出店をすればブランド戦略上効果的だとか、短期、中期、長期の戦略と緻密な計算の下で判断していくわけです。体育会出身でラグビーのノリで経営するというのは極めてまずいです(笑)。

麻生さん 陣取り合戦の話ですが、慶応高校の頃、2年連続国体で優勝したんですが、本当に強いチームではなくて、どちらかというとまとまりのいいチームでした。私は6番ですし、4番、5番は173、174㎝くらいでしたから、今なら考えられないくらい小兵のチームでした。それでもずっと負けなかったのは、当時の村岡監督の教えで「敵陣25ヤードに入ったら絶対点を取ってこい」「自陣の25ヤードに入ってこられたら絶対点を取られるな」というのがあって、攻めた時は点を取れ、自陣は守り抜けということなんですが、フランカーだった私は自陣に攻め込まれたらとにかくバチバチタックルに行けと言われました。秋田工業とか天理高校とか強豪とあたった時でもこの教えに従っていた。(村岡監督のこの陣地の考え方は)いい狙いだったなと思いますね。一方、大学の時はとにかく「己に勝て」というのが監督の教えで、手を抜こう、妥協しようとするな、と叩き込まれ、それが4年の時に実ったと思います。

長期ビジョンについては経営者の最優先課題だと思いますね。従業員もたくさんいるわけですから、この企業はどこに向かっているのか、何が使命なのかを明確に出さねばいけない。

それを出すためには3年後の日本は、病院界はどうなっているのか、という未来からの反射、過去からの延長ではなく、未来からの反射を受け取る情報力と判断力が大事だと思っています。

規律

柿木さん 次のテーマに行きましょう。近代ラグビーで重要なポイントとして「規律」があげられます。企業活動あるいは企業経営における規律についていかがですか。

麻生さん 立派な企業の不祥事が次々に表に出ているわけですが、これを防ぐにはトップが強いメッセージを出すということでしょうか。私のところでは、「悪は急げ」「バッドニュースをトップに出せ」と言っています。良いニュースはどんどん上がってくるのですが、悪いニュースはなかなか上がってこない。ただ、これは何か起こった場合ですから、その前の規律では、やはりトップの姿勢ですね。うちは地方の同族会社なので、オーナーの思いは浸透しやすいんでしょうか、オーナーがどういう哲学でやっているのか、どういう使命感、どういうクリーンさを持っているかが重要でしょう。「麻生がやっていることなら大丈夫だろう」という信頼は先代からの財産ですし、それを守っていくことが大事だと思っています。

玉塚さん 規律はものすごく大事だと思います。リヴァンプの時に結構企業再生を手掛けしたが、残念ながら倒産してしまう会社もありました。その前のユニクロはいい意味でも悪い意味でもものすごく強い会社で、その後のリヴァンプで資金繰りに苦しむような会社に入ってみて、強い企業と弱い企業の決定的な違いはカルチャーなんだと気づきました。ビジョンがあって、想いがあって、結果としてその組織に生まれるカルチャーというのがとても大事で、例えば会話の中でお客様視点をちゃんと持っているかどうかとか、取引先に横柄な態度をとっていないかだとか、組織組織によって、カルチャーを支える規律があって、それを守るということがとても重要です。一方、イノベーティブに自由闊達に行く、これも大事で、商売っていうのは矛盾との闘いでもあると思います。トップダウンとボトムアップどちらが大切かと言われれば、変化の激しい時代、トップダウンでの大胆な指示も大事ですし、今これが売れています、こんな声がありますという現場からのボトムアップの動きも両方が必要です。品質を高めよう、その為に良い素材を使おう、コストを抑えよう、どっちも大事です。その矛盾を創意工夫で上手にバランスさせて、健全な形で作り上げていくのが経営だと思うんです。規律は絶対大事、イノベーションも大事、そしてこれは絶対に両立できる。規律を緩めて(間違った方向に)踏み出してしまうと組織は短い時間でおかしくなると思います。

岩渕さん ラグビーはもともとレフリーがいなくて、両チームのキャプテンが決めていたという歴史もありますし、体をぶつけることに関するルールはあまりないスポーツです。両チームが規律を守るからこそ、自由なプレーを生まれると思います。2015年のチームも規律をものすごく大切にしました。エディーも規律という言葉をよく使いました。一方で、規律を守っていることが多くなりすぎると、変えた方がいいことが生じても、無責任に規律を守ればいいという風になってしまうこともありました。そこに見えている規律が本当に必要なのか、変えた方がいいのではないか、先ほどから議論に出ているリーダーやキャプテンがそういうことを丹念にチェックしながら繰り返すことで、そのチーム独自のカルチャーが出来上がってきたのではないでしょうか。ただ、これまでの日本代表とオールブラックスとの大きな違いは、オールブラックスがカルチャーを語り継ぎ、積み重ねていっているのに対して、日本代表はワールドカップのある4年ごとにコーチが変わって、キャプテンが変わって、チームカルチャーが変わってしまっていたことです。日本のなかでは大学に伝統とかしっかりしたカルチャーとかが色濃く残っていると思いますが、2015のチームもこれを残したいと強く思って、ワールドカップベスト8などの目標とは別に「何のためにラグビーをやるのか」「何のために戦っているのか」という理念を大切にして、選手スタッフ一丸となって取り組んでいました。規律を守るのは大切ではあるけれど、その時その時に文化をどう作り上げるかというものそれに劣らず重要ではないかと思います。

国際性

柿木さん さて、次のテーマは国際性です。企業の内なる国際化、そして国際展開、両面あると思います。ラグビーは国の代表になるための資格が他のスポーツとかなり違い、日本代表を含め外国籍の選手がどこのチームでも活躍しています。お三方とも海外経験が豊富ですが、国際化という観点でお話しを伺わせて下さい。

麻生さん 長男に社長を譲った時、長男が35歳くらいの時ですね、その時最初に言われたのが、「親父、グローバル、グローバルというけれど、海外M&Aをした時、どこの社員がそこのCEOになれるんだ」と、「煮詰まる日本だけでなく、海外に出ていかねばならない、資産分散していかなきゃいけない、そういう時に誰がCEOになれるの、誰も育ててないじゃないか」というんです。私は結構、会議を英語でやるとか対策をとっていたつもりだったんですが、息子からみると、全然いないと。グローバル対応力ってのはなかなか難しいなあと感じたわけです。

ちょっと脱線しますが、17、18年前にセメント業界が厳しくなって再編の嵐が吹いた時、国内で組む相手を探したんですけど、みつからなくて、海外と組んだんですね。世界の一流と組もうと思って、ラファージュ(LafargeHolcim)というフランスの会社を選んだんですが。その時、友人がすごくいいことを教えてくれて、「ラファージュを選ぶんだろう、だけど絶対compete(競わせ)なければだめだ」というんです。それで、競合の3社を回って「日本に来る気はないか」と話しをしたうえで、ラファージュとの交渉に臨んだわけです。向こうも「お前はオーナーだから話は早い、組もう」となったんですが、「実はうちは他にも3社からビットを貰っている」と話すと、一気に交渉が進んで、いいお値段で組むことができました。さて、いったん組むと、外国人のCOO、CFOが来て、「一人でも外国人が役員に入ったら会議は英語にしよう」と決めていたので、そんな事も実施しました。ほかの事業でもグローバル化しなきゃいかんので、病院は米国と組みました。

(人材が足りないといっていた)息子が選んだのは不動産でした。不動産ならいい物件を買えば、決まった賃貸料が入るし、低金利の長期資金も調達できるし、あえてCEOもいらないということで。早く国際展開を進めたいのはヤマヤマなんですが、現状では人がいないというところです。いずれにせよ、海外と組まなければ日本の市場だけではやっていけないというのは痛感していますね。

玉塚さん 海外に携わったのはラグビーのおかげが実は大きくて、慶応の時に、何周年記念かの事業でイギリスに遠征させて貰いました。3週間くらいかけてイギリス中を回り、ケンブリッジやオックスフォードと対戦したんです。オックスフォードには勝ったけど、ケンブリッジには負けました。

ラグビーでは伝統的にガチンコの試合をした後でもノーサイドということで、同じラグビーを愛する友達として交流会をして、食事したり、一杯飲んだりするんですが、ケンブリッジとの試合後のレセプションではハリーポッターみたいな蝋燭がパアーとある歴史ある会場に招かれて、こっちに慶応、こっちにケンブリッジと並んでいたんですが、ケンブリッジのメンバーはみんな文武両道なんですね。医者とは弁護士とか目指しているという感じで。本当に友達になりたかったんですが、当時の僕は英語が全く話せなくて。「Beef good!」以上終わり、こんな感じでした。本当に情けなかったし、もったいないと思ったんです。その時に、社会人になったら海外で活躍するビジネスマンになろうと決心したんです。

卒業後、旭硝子に入社して、2年間は工場でヘルメットかぶって、安全靴はいて働いていましたが、毎日上司に「海外に行かせて下さい」と言い続けていました。4年目にシンガポールに行かせてもらえたんですが、その時も「君、英語は大丈夫か」と聞かれて、実はたいして勉強していなかったから問題あったんですが、「全く問題ありません」と言って、赴任したんです。ところが、シンガポール人の英語は独特の発音で、最初6か月くらいは本当に苦労しました。かなり落ち込んでいたんですが、ある時グラウンドでラグビーやっているのをみかけて、「仲間に入れてくれ」と言って一緒に練習しました。当時まだ27歳だったので、体も動いて、週末の試合では何本もトライをとるなど結構活躍したんです。そうしたら、チームメイトが「あいつは英語喋らないけどすごいぞ」となって、ゲストプレーヤーとして何度か参加していたら、「うちのクラブのメンバーになれ」という話になってクラブに入れて貰ったんです。実はこれが「シンガポール・クリケットクラブ」という名門中の名門クラブで。そうしたら、ある大手銀行の現地トップから、役職もない一般社員の僕にいきなり「ランチをしよう」と電話がかかってきて、何だろうと出かけてみたら、「どうやってあのクラブに入ったのか」と聞かれるわけです。「いや、ラグビーをやっただけです」と正直に話したら、「嘘でしょ~」と言われました。いい話でしょう?

英語に関して言うと、このチームも練習や試合の後に、パブでぬるいビール片手に延々と話すんです。誰かが冗談を言うと皆大笑いするんですが、この冗談がとにかくわからない。それでもわからないなりに「がははっ」と大笑いを続けていたら、だんだん英語が怖くなくなってきたんです。

日本ではとても日本代表にはなれませんでしたが、結局シンガポールでは代表にしてもらって、副キャプテンとして1991年の香港セブンズにも出場しました。その時はオーストラリアと対戦して、ボールが飛んできてぱっと取ったら、ティム・ホランという名選手(1989-2000オーストラリア代表、ワールドカップ2度優勝メンバー)が目の前にいるんです。セブンズはパスしなきゃダメなんですが、これは千載一遇ってわけで思い切って当たったんです。そうしたら向こうも脳震とうを起こしたんですが、僕は膝を痛め、内側と十字の靭帯を切ってしまって、シンガポールで何度も手術する羽目になって、僕のラグビー人生は終わったんです。31歳でした。

これ以外にも、外国人と交渉していて、少し難航し、その後ランチに行って話した時、「お前日本人にしては図体でかいな。何かやってたのか」「いや、ラグビーを」というと、その瞬間に相手の顔が変わるんです。これは不思議なんですが、ラグビーをやっていた者同士って、「お前も膝すりむいて」「あほなやっちゃな」と、認め合うんです。急に商談が進んだこともあります。

さて、企業のダイバーシティーという話に戻ると、答えは今のラグビー日本代表にあると思いますね。あのハイブリッドさは素晴らしい(2018年秋の日本代表の海外出身者比率は36%)。ただ、企業側には「よし、お前の会社にはいってやろう」というような魅力を持つ必要もあるし、もちろん日本の場合は海外から人を呼ぶとペイも高いですが。

それにしても今の日本代表はどんどん強くなっている。渡瀬君(渡瀬裕司ジャパンエスアールCEO、慶応卒)がやっているサンウルブズ(南半球を中心にとしたプロラグビーリーグ、Super Rugbyに参戦している準日本代表チーム)もニュージーランドやオーストラリア、南アフリカの怪物のようなプレーヤーとがんがんぶつかって鍛え上げている。様々なダイバーシティーを背景に底力をつけて来ている。日本代表に答えがあると思いますね。

柿木さん サンウルブズは9か国の出身者が集まっていますよね。ダイバーシティーの見本のような組織です。さて、最後はご登壇戴いた皆さんがお互いに聞いてみたいことはありますか。

岩渕さん 麻生さん、玉塚さんが今、日本代表の監督をやったら、誰をヘッドコーチに呼びますか。

麻生さん 僕は失格です。今のメンバーには知識がないので。

玉塚さん 実は先日、エディーさんに慶応の山中湖の合宿に来て戴いたんですが、彼がグラウンドに入った瞬間から空気が変わるんですよね。でも、彼が言うことって、滅茶苦茶シンプルなんですよ。「ダメダメダメ、まっすぐ」「パス遅い」「さぼってる、走れ」と、英語と日本語のミックスで。ただ、(あの指導力は)何だろうと考えると、やはりグローバルスタンダードがわかっているということなんじゃないだろうかと。オーストラリアとか南アフリカとかイングランドとかでの指導を経て、グローバルスタンダードを経験しているから、練習の一つ一つ細かいところで適切な指導ができる。やはり世界を目指すにはグローバルスタンダードを知っているというのは大きいと思います。選ぶとしたら、グローバルスタンダードを経験して、かつ日本の侍スピリッツも理解していて、となると、やはりエディーさんじゃないかなとも思いますね。

麻生さん 岩渕さん、セブンズ総監督として、ラグビー界を引っ張っていって戴いているんですが、今一番の課題、悩みは何でしょうか。我々が手伝えることはありますか。

岩渕さん ありがとうございます。一番の課題は2019年にワールドカップが来て、2020年に五輪が来て、その後の絵がはっきりしていないことだと思っています。先ほど長期戦略の話で、スポーツは決まった試合時間があるという話もありましたが、一方で、ラグビーが今後日本のスポーツの中でどんな位置づけになっていくのかだとか、他の国の事も含めてラグビー全体がどうなっていくのかだとか。ワールドカップや五輪のような大きなイベントの先に、どういう未来が待っていて、このタイミングでは選手にはなれない子供たちが次にどこを目指していくのかとか、そういう絵をこの2年の間に描いておかないと、その先は厳しいのではないかと思っています。

玉塚さん 麻生さんに質問なんですが、九州ってすごいポテンシャルがあるって思っているんですよ。外国人のインバウンドの方も増えているし。先ほど飯塚を変えてやるってお話しをされましたが、飯塚を変えることができれば、日本の色んな地方を変えることができるじゃないですか、その戦略をお伺いしたいです。

麻生さん 今九州経済連合会というところの会長をしているんですが、これはもう50年間ずっと九州電力の会長が務めてきたポジションで、今度はお前がやれっていうんで引き受けたんですが、そのためには「何のためにやっているんだ」という使命感、ミッションを出すことが必要だと思って、「九州から日本を動かす(Move Japan forward from Kyushu)」を掲げています。真剣です。日本の南西にありますから、アジアから人は来やすいのですが、(アジアからの訪問客)対前年比30%増というのを4年間続けているんです。バブルの頃でもないような伸びを4年クリアしているんです。もう一つは第一次産業、農業、水産業、林業、これを輸出していこう。1億1000万の煮詰まる日本国内市場ではなく、10憶人超のリッチになっていくアジアに売っていこうという戦略を立ててやっています。夢がだんだん(実現に向けた)ギアに入ってきたなと感じています。この間も中国からバンバン買い物に来ています。それはいわゆる爆買いでなく、ブリだ、檜だといった1000万円単位のものをずいぶん買い付けていってくれました。そうすると、九州から東京に出てサラリーマンをしている人が、「えっ、親父1000万円も売り上げてるの、畑から家まで10分で昼飯家に帰って食べているの」というような田舎の生活のコストの安さ、快適さ、通勤時間の短さなどに気が付く。九州の所得が増大すれば、次世代を九州に呼び戻すことができる。若い人が九州を出なくてもいいじゃないか、そう思うような九州を作りたいと、この丸の内で思っているところです(笑)。会場にいらっしゃる九州の人、良くなりますよ、九州は。

柿木さん それでは会場からも質問を受けましょう。いかがですか。

会場 リーダーやキャプテンシーのお話がありましたが、逆にフォロワーへの期待はいかがでしょう。フォロワーシップについてどうお考えですか。

麻生さん まさにフォロワーがカギですよね。さっきも話題になりましたが、例えばあいつは全日本だけどキャプテンにはなれない、しかしフォロワーとしてはいいよね、ということはあるわけです。キャプテンはキャプテンらしい人が選ばれるわけですが、それにフォワード・リーダーとか、それを支えるフォロワーが必要で、その人たちにキャプテンがキャプテン面ばかりしていてはだめで、どう盛り上げる人たちに感謝して、目標をシェアしていくかが重要です。一方、フォロワーの人たちは、自分はキャプテンにはならないが、どう貢献し、自分を伸ばしていくのかを考える。チャンスは上から降ってくるものではなく、自分が取りに行くものだから、フォロワーという役割の大きさを発見して、成長していく気になるようなことが大事ではないでしょうか。

麻生さん フォロワーというかどうかは別として、今私がやっているデジタルハーツという会社はゲームの非常に複雑なプログラムのバグを発見したり、テストしたりする事業をしているのですが、IoT(ものにつながるインターネット)などデジタルデバイスが増えてきて、非ゲーム領域にこのテストや検証とかサイバーセキュリティーのマーケットが広がってきているんです。全国15拠点にテストセンターであるラボを置いていて、一か所に300人とか500人のテスターという方々が働いているんですが、テスターは8000人登録していて、今日あたりも4000人くらいが稼働しています。これからますますデジタル化が進むと、例えばサイバーセキュリティー人材が不足するのは確実なんです。このテスターという仕事にはものすごい集中力とデジタルデバイスに対する親和性が必要なのですが、元々ゲーマーで引きこもりだったという人も少なくないんです。そのためデジタルハーツでは、先輩が、なぜ働く必要があるのかとか、なぜ挨拶をしなきゃならないのかとか教えるところから始めるんですが、最初のバグを見つけた時に皆で拍手して、その瞬間から社会とつながるんです。引きこもりの人って実は裕福なご家庭の方が多いんです。部屋があて、ゲーム買って貰って、冷蔵庫に食べ物があると、そうなってしまうわけです。お金がなければ建設現場でもコンビニでも働かなきゃならない。今の日本は80万人とか90万人とか人手不足なのに、こうした引きこもりの人たちも多いんです。僕がこの会社でやりたいのは、この8000人の登録テスターを対象にタレントマネージメントシステムを作って、一人一人がどういう志向性があって、どんなプロジェクトにかかわってきたかをデータ化して、最初の入り口はゲームのテスターなんだけと、ゲーム以外のシステムのテストができる人材に育って行く、その延長線上でデジタルハーツ・サイバーセキュリティー・ブートキャンプっていうのを作っていて、そこで訓練した上でサイバーセキュリティーの監視とか、様々な仕事にステップアップしていく。つまり、世の中がすごいスピードで変わっていくなかで、一緒にいる仲間が輝ける場所は絶対あるので、僕なんかが持っていない才能を生かして、社会に不可欠な存在にトランスフォームしていく、そんな教育プログラムを作りたいと思っているんです。もしかしたら、キャプテンやリーダーとそして仲間やフォロワーがこんな会社にしようとか、こんなことがしたいと、膝突き合わせて話して、そこから人材の付加価値がついていく、そういうのが大事だと思うんですよ。

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