2018年9月 イベント

2限目 2018年9月20日(木)19:00〜20:30

奇跡を起こす、言葉の力

福澤克雄

1964年1月17日生まれ
TBSテレビディレクター/演出家/映画監督

山崎紘菜

1994年4月25日生まれ
女優

ラグビーがあって、今の自分がある

矢野武さん(聞き手) 山崎さんがラグビーに興味を持ったきっかけは何ですか?

山崎さん 私は、2013年から4年間、全国大学ラグビー選手権大会のイメージモデルをさせていただきました。私も当時大学生で、同世代の選手たちがひたむきにプレーしている姿に胸を打たれて、好きになりました。

矢野さん ラグビーのどんなところに魅力を感じますか?

山崎さん やはり「One for all, All for one」の精神です。トライを取った選手が、ヒーローインタビューで自分の力だとは絶対に言わない。仲間がいてくれたからトライを取れたとか、相手がいたから自分たちが勝てたとか、謙虚さやリスペクトの気持ちが素晴らしい。

矢野さん 福澤さんがラグビーを始められたのはいつですか?

福澤さん 5年生のときのクラブ活動です。それまで映画ばかり観ていたんですが、みんながやるからという理由でラグビーを始めて。最初は全然活躍できなかったんですが、続けているうちに面白くなっていきました。

矢野さん 子どものころからラグビーが好きだったというより、映画が好きだったんですね。

福澤さん ずっと映画監督になりたかったんです。だから、ラグビーはやっていた証をつくったら辞めるつもりでした。そしたら、ラグビーの高校代表になれたので、辞ようと思ったんですが、母が大喜びして。こんなに喜んでくれるならと大学でもラグビーを続けたら、そこからが大変でした。とにかく練習が過酷で、練習を休むためにわざと怪我しようするくらい精神的に追い詰められて、心底ラグビーが嫌いになりましたね。それでも続けられたのは、仲間がいたからです。全然試合に出られないチームメイトもいて、彼らのためにも試合に勝つしかないと思いながら必死に4年間続けました。

矢野さん ここで、1つ目のキーワード「ラグビーよりキツイものはない」です。やはり、そういうものですか?

福澤さん 慶應のラグビーの中でも特にキツイのが、山中湖合宿。1ヶ月地獄を見て、人として強くなるし、チームも団結します。あまりにも練習が過酷で、助け合うしかない状態になるので、イジメなんか一切ありません。その代わり、コーチや監督を敵対視していく。そうやって、チームが団結するんです。きっとエディージャパンと同じですね。W杯の南アフリカ戦で「引き分けを狙え」とエディーが言ったのを、選手たちが無視したのは、そういうことだと思っています。でも、エディーさんはそれを狙ってたんじゃないですかね。

矢野さん 嫌われ役を買って出たということですか?

福澤さん おそらく。ラグビーは、気持ちが大事。そして、才能がなくても出来るスポーツ。W杯に出るような人たちは違いますけど、大学レベルだと、必死に練習して体力と筋力をつけて、あとは気持ちが入っていれば活躍できる。そういうところがラグビーのいいところですね。

山崎さん 小柄の選手でも輝けるポジションがあるというのは、ラグビーの魅力の1つだと思います。

矢野さん 体力のお話が出ましたが、テレビドラマの仕事もかなり大変だと聞きますが、どうなんですか?

福澤さん 僕がTBSのドラマ部に配属されたとき、周りにいた人たちは劇団で脚本を書いてた人や自主映画で賞を獲った人たち。でも、体力勝負の仕事だったので、そういう才能がある人でも次々に辞めていきました。そんな中でも、僕は全くキツイと思いませんでした。だって、ラグビーのほうが100倍キツイですから。

矢野さん それでラグビーよりキツイものはないと。

福澤さん 社会に出てみれば、理不尽なこともあります。でも、そういう世界で生き残る精神力をつけてくれたのはラグビーです。

矢野さん 山崎さんも、ドラマの撮影で大変なことはありますか?

山崎さん そうですね。でも、スタッフさんや周りの方々が頑張っている姿を見たら、やっぱり自分も頑張ろうって思います。

矢野さん ラグビーみたいですね。仲間を見て、頑張ろうって。

山崎さん 「One for all, All for one」ではないですが、私が作品に出させてもらってるのは、周りにいる人たちのおかげだという気持ちは、人としても女優さんとしても絶対に忘れてはいけないものだなと思っています。

優れた感覚を身につけ、自分を信じる

矢野さん では、次に2つ目のキーワード「一流を見続け、イメージし続ける」について伺いたいのですが、福澤さんは黒澤映画や昔の名作を観られたそうですね?

福澤さん ADを経て、僕も監督をやるってなったときに、自分にできるのか心配になったので、一流監督の演出論の本を片っ端から読んだんです。でも、意味が全然わからなくて、ラグビー形式でいきました。慶應の合宿所にはオールブラックスや海外のトップレベルの試合のビデオが置いてあって、一流の選手のプレーを何回も観ていると、自分が試合で同じ状況になったときに、瞬時にそのプレーができることがあるんですよ。だから、オールブラックス級の映画の映画を30本選んで、毎日のように観ました。

矢野さん 作品いろいろ観るのではなく、同じ作品を繰り返し観たんですか?

福澤さん そうです。とにかく、いい映画の感覚を入れ込む。セリフとセリフの間、音楽と映像、ストーリーのつくり方などは、考えてもよくわからないので、感覚を入れていくんです。

矢野さん なるほど。そうやって続けて来られて、『半沢直樹』や『下町ロケット』というヒット作を生み出されるわけですが、これらの作品が生まれた背景について伺わせてください。

福澤さん 実は僕、『華麗なる一族』をつくった時に山崎豊子先生にお会いして、怒られたんです。「日本を支えきたのは、技術者やものづくりをしている人なんだから、彼らをフィーチャーするようなドラマや映画をもっとつくりなさい!」と。その言葉がずっと頭に残っていて、池井戸潤先生の『下町ロケット』を読んだときに「これだ!」と思ったんです。

山崎さん 福澤監督のドラマを見ると、お父さんとかお母さんにありがとうって言いたくなるような作品だなと思います。

矢野さん でも、そういう人たちにスポット当てるのは、結構なチャレンジですよね?

福澤さん マーケティングでどういうドラマが観たいかをリサーチすると、刑事ドラマや恋愛ドラマの支持率が高くなって、『下町ロケット』みたいなものは全く支持されない。その数字が蔓延していって、こういうドラマは絶対当たらないという変な常識が業界にはできていました。だから、最初は大反対されました。

矢野さん でも、福澤さんは自分の感覚を信じていた。そして結果的に、常識とされるものが、常識じゃなかったということですね。

福澤さん もちろんテレビ局なので、絶対に視聴率は取らなきゃいけないんです。ただ、そのためだけに頑張ると失敗する。一番大切なのは観てくれる人なので、その人たちに楽しんでもらうためにはどうするかを考えて、期待以上のものを提供できるように、新しい刺激などを入れながらつくっています。

プレーヤーの心を支える指導者の言動

矢野さん 先ほどの話もそうなんですが、次のキーワードは「勝てるわけがない、でも勝てる」。慶應ラグビー部が、日本選手権で初優勝したときのお話を伺いたいと思います。

福澤さん 日本選手権は、社会人優勝チームが相手ですから、全員が勝てるわけないと思っていましたよ。ただ、上田昭夫監督は「こうすれば勝てる」と、ずっと我々に言ってくださった。「外国人レフェリーは、スクラム落とすとすごいペナルティ取るから、絶対手上げていろ」とか、戦略も徹底的に教わりましたし、かなりハードな練習もしました。それでも、その時に試合臨んだ15人中で、僕は最後まで勝てるわけないって思ってましたけどね。

山崎さん そうなんですね(笑)。

福澤さん 相手のトヨタ自動車は、一列がみんな日本代表で、スクラムがものすごく強かった。勝てるわけがないって、多分ファンの方も思ってましたね。でも、試合開始と同時に相手と当たった瞬間にこれは勝てるかもしれないなと思って、そこから一生懸命やりました。

矢野さん 上田監督が、勝たせるための準備をし、勝てるかもしれないと選手に信じさせていたことにも意味があったということですね。そういうラグビーにおける監督やコーチと、ドラマや映画の監督やプロデューサーとで、重なるところはありますか?

福澤さん 僕が監督やる時に感じているのは、所詮監督は監督ということです。プレーヤーがちゃんとしてないといい作品はできない。ラグビーでも同じで、監督が優秀でも選手がダメなら勝てない。だから僕は、ある程度役者を信じてやらせるんです。最後は選手を信じて送り出した後は、何にも言わない上田監督をずっと見ていたからかもしれません。

矢野さん 最後に「言葉の力」について伺いたいと思いますが、福澤さんは、ドラマをやっている中で生まれた言葉やセリフで、印象深いものはありますか?

福澤さん やっぱり「倍返し」が僕の中では大きいです。池井戸先生の原作で1、2回出てくるんですけど、惹かれるものがあったので、ドラマでは毎回1回ずつ入れるようにしたら、予想外にウケて。池井戸先生の言葉のセンスだと思いますけど、自分がいいと思って使ったものがあれだけ話題になると、ちょっと快感でした。

山崎さん 自分の感覚を信じるってことですね。

福澤さん そうですね。原作上で、すごく輝いているように感じたので。

矢野さん トンプソン ルーク選手が言った「歴史を変えるのは誰よ」という言葉。あの言葉で、選手たちが「歴史を変えよう、歴史の創造者になろう」と思ったっていう話もありますよね。山崎さんもそういう、力をもらった言葉はありますか?

山崎さん 私は「インヴィクタス」という南アフリカの代表のラグビーの映画が好きなんです

矢野さん ネルソン・マンデラさんの話ですね。

山崎さん そのマンデラさんの「我が運命を決めるのは我なり、我が魂を制するのは我なり」という言葉には、すごく奮い立たせられますね。あと、第52回の大学選手権のポスターにも書かれていたリーチ マイケル選手の「Believe in your preparation」という言葉。不安になったり、弱気になったりしたときに、自分のやってきたことを信じようという気持ちになります。

SHARE

このサイトはスマートフォンの
画面を立ててご覧ください。