2019年1月のイベント

1限目 2019年1月18日(金)19:00〜20:30

ラグビーからみる人材育成&人材発掘に関して

中竹竜二

日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター
株式会社チームボックス 代表取締役

左京泰明

特定非営利活動法人シブヤ大学 代表理事

フォロワシップは「支える」という行為

柿木英人さん(聞き手) まずは、最近注目を集めている「フォロワシップ」の考え方をうかがいます。その概念とはどういうものなのでしょうか?

中竹さん 僕が早稲田大ラグビー部の監督になった時に、ファーストミーティングで「1回も指導したことのない人間がチームを作らないといけない状況です。みなさんにラグビーとして教えることはほとんどないかもしれないけど、勝たないといけないのでフォロワシップを掲げてチームを作りましょう」と話しました。
僕自身、大学4年の時になぜかキャプテンに選ばれたのですが、その頃はリーダー、キャプテンと言えばチームを引っ張る人のことでした。1つ上の小泉(和也)キャプテンは素晴らしいリーダーでしたし、ラグビーをやめて社会人になって10年後に監督に就いた時の前任は清宮(克幸)さんというカリスマ監督でしたからね。でも僕は真逆のタイプで。言葉を大事にしようと考えました。
リーダーシップは「考え方」より「引っ張る行為」だと捉えると、フォロワシップは「支える行為」のこと。リーダーは物事を決めたり、まとめたり、発信したりしますが、フォロワーは見守ったり、支えたり、隣にいてあげたりする陰のような存在。選手が自分たちで自分をセルフリードするというか、お互いにリーダーシップを発揮しながら支え合う。フォロワシップだけでは勝てないので、みんながリーダーシップもフォロワシップも持って、自分が本当にやりたいこと、目指すべきことをしてきましたね。

左京さん フォロワシップは監督を支える選手側に求められる姿勢や関わり方だけではなくて、監督自身も、リーダーシップとフォロワシップ的な関わり方があるのですね。

中竹さん まさにそうです。僕が一番伝えたいのはそこです。フォロワーに頑張ってくださいというより、僕みたいに引っ張れないのに頑張ろうとするリーダーに、「無理しないでください」というメッセージでもあります。

柿木さん リーダーとフォロワーが必ずしも別人格である必要はない。

中竹さん そうですね。会社で言えば、課長はリーダーですけど、部長からすると部下。つまり引っ張る時もあれば支える時もあります。もちろん上に立っている時だけ引っ張ればいいということではなくて、メンバーに任せて、「見ているからやってごらん」と促すことも、課長のリーダーとしてのフォロワシップです。

「学ぶ」という時には、アウトプットの想像がある

柿木さん では、左京さんのシブヤ大学の取り組みを教えてください。

左京さん シブヤ大学とはNPOで運営する市民大学です。2006年から、特定の校舎を持たずに、渋谷という街・地域を架空の大学に見立てていろんな授業を行う活動をしてきました。特別な人や一部の人だけでなく、その街に暮らす人が生徒や先生になって、お互いが学び合い、教え合うという仕組みです。

中竹さん そのコンセプトはいつ思いついたのですか?

左京さん 2004年頃、NPO法人のグリーンバードという団体と渋谷区議会委員の二足のわらじを履きながら活動されていた長谷部健さんが、区議として渋谷区の新しい生涯学習授業を提案しました。その時から「街全体がキャンパス」というコンセプトです。行政ではできないのでNPOで事業化しようということで、僕がバトンを受けました。

中竹さん 市民を主役にするコンセプトはフォロワシップに似ていますよね。市民はサービスを受容する側であり、主体者でもある。ただし、放っておいてもそうはならないので、シブヤ大学という仮想の大学を作ってリーダーにしていく仕組みを提供したと。

左京さん NPOの運営で重要なのが、ボランティアスタッフのマネジメントです。通常のビジネスのような雇用契約や職務が決まっているわけではないですし、余暇の時間に、自由な意思で参加してくれています。こういった人に、責任を持って役割を全うしてもらい、なおかつやりがいや成長を感じながら継続的に関わってもらえるか。そこには、フォロワシップという関わり方が非常に重要になってくると思います。

柿木さん シブヤ大学も大きなテーマには「学び」があります。

左京さん 僕らが思う「学び」は、生産性を上げるためだけではありません。その人がいかに豊かに生きていくかという中で、いろんな学びがあっていいと思います。それこそ役に立たなくてもいいし、ビジネスに使わなくてもいい。成長してそれが仕事に役立つとかだけではなくて、これができるようになって毎日が楽しくなる、人生が豊かになるというような学びを大事にしたいと思ってやっています。

中竹さん 学びは、脳科学的な脳の構造では4種類あります。情報収集はあくまでそのうちの一つ。それに続くものが「内省」で、学んだものと自分の経験を照らし合わせること。情報収集よりも圧倒的に時間が掛かります。なぜなら、立ち止まって考えないと内省できないから。3つ目は「想像」です。イメージやクリエイティブ、物事を作ることは全部、学びの一つだと言われています。最後は「検証」です。2つ目のリフレクション(内省)に近いですが、目指していることに対して、自分はちゃんと行動できているのかと。つまり「学ぶ」時には、アウトプットの想像があります。

柿木さん その意味で、シブヤ大学は本当にいい学びの場を提供していますよね。

左京さん 面白いなと思ったのは、今どんな学びを求めているかという話をしていた20代の人たちが、「誰かと真面目に話したい」と言ったことです。SNSなどのつながりの中でコミュニケーションがあるように思えて、実は生活における当たり前のことを話す機会がないのだと。教えるとか教わるではなくて、あるテーマを囲んでざっくばらんに話し合える機会のことですね。僕らはそれを「学び合い」とか「学び合いの場」と言っています。シブヤ大学では、他者との関わりの中での気づきが議論されていますね。

中竹さん 「学び合い」はすごくいいですよね。「コラーニング」と言って、1人で学ぶより2人で学ぶ方が圧倒的にいいですから。教育学でも「1人が教えると2人が学ぶ」と言われています。アウトプットしながら学べるからこそ、教える側も共に学ぶ姿勢になった方が、その場の関係性が非常によくなるということです。

ボランティアのマネジメントは人を動かせる究極の形

柿木さん 2人は周囲の自主性を引き出すタイプだと思いますが、組織作りでは個々の自立を促し、自ら考えることが課題とされています。

左京さん 組織に関わる人材は、「組織の目的や目標達成のための人材・手段」と捉える一方で、「組織や活動自体が、その人の人生にいかに手段として役立つか」という視点も大切。NPOのボランティアは、その活動がなくても生活が成り立つので、お金ではない対価が必要です。活動に関わることで、その人がどうイキイキするのか、人生がどう豊かになっていくのかを考えなければいけません。それがあるからこそより力が発揮されて、組織の高い成果につながっていくという、両立が大事だと思います。

中竹さん インセンティブがないボランティアのマネジメントは難しいですよね。

左京さん そうですね。でも、ボランティアのマネジメントはお金や契約といった強い鎖を使わなくても人を動かせる究極の形。ビジネスの現場以上に学びがあります。

中竹さん そのノウハウは企業にとっても重要で、汎用性のある本質的なものですね。

柿木さん マネジメントの話では、褒める、叱る、共にやるといった方法がありますが、監督や、指導者の指導をされてきた中竹さんはどんなアプローチをしていますか?

中竹さん どの方法も、考えてみれば「手段」ですよね。僕が危険だと思うのは、「怒るより褒めた方がいい」とか、「指示するより問い掛けた方がいい」という世間の流れ。フォロワシップは大事ですが、本質的には指示して怒った方がいいに決まっています。僕も、言わないといけないことは「ダメだ」と言います。
普通、自分の上司や社長を褒めることはないですよね。なぜなら、「褒める」行為は評価であり、上下関係だから。「褒めているのに実績が出ない」は、実は当たり前の構造だということです。僕も手段として褒める時はありますが、「褒めるの反対主義」です。人を育てる時には、引き出す「Pull(プル)」や、命令や指示をする「Push(プッシュ)」、問い掛ける前にやらせる「Delegate(デリゲート)」、中間にあたる「Show(ショウ)」などがあります。「Tell」でも「Teach」でもなく、見本としてショウする。人は、目で見て学ぶ能力があるので、伝えるよりも見せた方がいい。デモンストレーションで学べるわけです。コーチを育てる時には、どの人にどのプロセスでどう対応すべきかをすごく考えます。そこで体系化されたものが、最後に自然と現場で動き出すようになると、みんなが学ぶ場になっていくのではないかなと思っています。

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