2019年1月のイベント

2限目 2019年1月20日(日)15:00〜16:30

ビジネスに効く!ラグビー流「心技体の鍛え方」

荒木香織

園田学園女子大学人間健康学部 教授
株式会社CORAZON チーフコンサルタント

廣瀬俊朗

東芝ブレイブルーパス BKコーチ
ラグビーワールドカップ2019™ アンバサダー

真壁伸弥

サントリーサンゴリアス所属
ポジション:LO(ロック)

矢野武

スポーツ実況アナウンサー(フリー)

エディー・ジャパンのリーダー作り

矢野さん 3人の共通の話題はラグビーワールドカップ2015・イングランド大会で南アフリカを倒したエディー・ジャパンです。荒木さんは2012年からメンタルコーチに就任しました。そもそもどんなお仕事ですか?

荒木さん 私たちの思考や感情は、コントロールできるとすごく前向きに変えられますが、人生はそううまくいかないですよね。浮き沈みもあるし、心は折れるもの。そういう時にどうすればうまく乗り越えていけるか、うまく過ごしていけるか。それぞれの役割を確実に理解してもらって、何をすることが自分のため、代表のためになるのかを、時間を掛けながら一緒に見つけて、それを信じて体現してもらうイメージです。

矢野さん 日本代表の最初の印象は?

荒木さん 「エディーさんが来て勝てんの?」という感じ。エディーさんに「俺らを勝たせられるんやったらやってみ」と言った選手もいました。エディーさんの私に対する要求は、選手のワールドカップに向かう姿勢や思考を「どうせ無理だろう」という悲観的なものから「俺たちにもできる」といったマインドセットに変化を促すこと。「ちゃんとやれば変わるし、あなたには4シーズンあります」と言われました。

真壁さん エディーさんはもともとサントリーの監督だったので、サントリーのメンバーは勝つ喜びを分かっていて付いていきやすかった。エディーさんのやり方がだんだん他の選手に伝わっていった感じですね。

廣瀬さん 東芝の選手もオフ・ザ・フィールドで一体感を作るのがわりと上手。藤井淳や望月雄太は「行くぞー!」ってやれるし、最初はチームを作る人選やったのかな。そこがかなり肝心だったと思うので、彼らがいてくれて僕自身もやりやすかったです。

荒木さん エディーさんと私でどうすれば4年間でいい組織、勝てるチームを作れるかを話した時に、スポーツ心理学の研究を基に、リーダーのグループを作って全体に落とし込んでいく作業をしようと。4年間で80人くらいの選手が呼ばれました。かべちゃんはリハビリだけでプレーはできない時も含めて、最後まで呼ばれました。メンタリティや姿勢を、エディーさんはすごく見ていたのですね。

勝敗はコントロールできないが、準備はできる

矢野さん 南アフリカ戦は世界中で取り上げられました。特に思い出されるのが五郎丸歩選手。“あのルーティーン”にまつわる悩みもあったのではないでしょうか?

荒木さん ないない(笑)。気持ちよく、楽しくラグビーをしている人です。ただ、エディーさんの要求で、五郎さんがもう少しキックの成功率を高めてくれれば、国際試合で点数を取れると。そこは「香織と五郎で取り組みなさい」と1年目に言われました。

矢野さん 最初はどうだったんですか?

荒木さん 「なんやねん、メンタルって」と。五郎さんは、目に見えないものを信じないし、意味が分からないことは絶対に「うん」と言わない。納得して理解してから次に進んでいこうとするので。でも理解してくれれば、ものすごく責任を持って必ず全うしてくれる。完璧にやりたい人でもあるので。

矢野さん あれはゲン担ぎとは違うんですよね?

荒木さん 五郎丸選手が用いたのは「プレパフォーマンス・ルーティーン」というもので、「キックを蹴る前に準備する時間」です。一連の動作は、ヤジや周囲の声、天候、勝敗を分けるシーンとかに関係なく、準備そのものに集中することでパフォーマンスは成功するという、スポーツ心理学のデータに基づくもの。それぞれにものすごく意味がある動きをしていますが、見え方が違っても、確認していることは同じです。

矢野さん ルーティーンは、ビジネスや普段の生活でも使えますか?

荒木さん 予め準備をしておくことは効果的です。これから起きることが分かっている時、どういう準備をすればいい感じで物事を進められるのか。コーヒーを飲んでその匂いでやる気を出すとか、掃除をしてから仕事を始めるとか。それがスムーズな任務の遂行につながります。

矢野さん 結果を出すためのアドバイスは何かありますか?

荒木さん 結果が出るかどうかは分からないですが、最大限に準備をする必要があります。でも、どんな準備をすればいい状態になるか分からない人は多いですよね。例えばプレゼンテーションをする人に「すごくアガるけど、どうしたらいいですか?」という時は、「アガること」に注意が向いています。それは普通のことなので、プレゼンの内容がきちんとできているのかを見て、うまく時間内でしゃべれるのか確認して挑みましょうと。その練習がルーティーンです。先ほど、裏でやっていましたよね?

矢野さん あぁ、(進行台本を)読んでいました。

荒木さん それは準備ですよね? 必ずルーティーン化されているはずです。「これとこれをやってから出ていきたい」というのがある。そういう感じでやれるものです。

矢野さん 自分の中で考えて、何か1つをやろうと決めてみても?

荒木さん それでOKです。でも、効果が出るには3カ月から半年くらい掛かります。五郎さんは3年半も掛かっていますからね。その第一歩は、自分自身を理解すること。日本代表選手はみんな、どういう時が自分の一番いい状態かを理解できていると思います。つまり、いい準備ができる選手だということです。

廣瀬さん 準備はコントロールできるけど、勝ち負けはコントロールできない。やれることをやって試合を迎えようというのが僕らのテーマでした。

矢野さん エディー・ジャパンの根っこかもしれないですね。

廣瀬さん それが勝つ文化を作ることにつながりました。リーダーのグループ作りの1、2年目のテーマとして、「勝つべきチームとは何だろう?」をみんなで話し合いました。例えば「勝つチームは国歌斉唱をみんなで歌っている」とか、ニックネームとか。そういうものを1つずつ積み重ねたら、最後にあんなことが起きた。

矢野さん 廣瀬さんはどんなことを大切にされていましたか?

廣瀬さん 自分らしさ。人それぞれリーダーシップの形は違うので、自分はどういう人で、どう振る舞って、どういうチームを作っていきたいのかを問い掛けてビジョンを作り、どうアプローチするのか。あとはいつも言っていますが、「なんのために勝つのか」をしっかり持つことがすごく大事。会社でもそうですよね。売上を伸ばすためにやるのか、お客さんに喜んでもらうためにやるのかなど。目的と目標は違うと思うので、目的のところにどんどんアプローチすると、人はなんかグッとくると思います。
だから「Why」がすごく大事。うまくいかなくてミスを責めるよりも「俺らは何のために集まったの?」、「勝ってみんなに喜んでほしいんじゃないの?」、「このパフォーマンスでどうするの?」、「もうやめる?」と聞くと、頑張ろうとなる。「なんでミスしてんねん」、「なにしとんねん」と言ったら、「俺だってミスしたくなかった」とか「疲れている」とか、いろんな言い訳が出てくるんですよ。

真壁さん リーダーは「自分がリーダーになる」と言ってなれるものではないですよね。廣瀬さんは人間味があって、一人ひとりとコミュニケーションを取りながら、たまに弱みを見せてくれるのですごく密になりやすいキャプテンでした。だから僕は、今でもずっと廣瀬さんがキャプテンだと思っています。

人生のためにラグビーと仕事を両立する

矢野さん 真壁さんはラグビーと仕事を両立していますが、どんな一日ですか?

真壁さん まずは朝練から。練習して、1時間くらいウェイトをして出社します。15時くらいに一度切り上げさせてもらえるので、クラブハウスに戻って、夜の練習という流れです。部署にもよりますが、夜しか担当者と話せないようなところはその時間から行くこともありますし、家に帰って休んだり、選手によってそれぞれ違いますね。

矢野さん 営業仕事は具体的にどんなことを?

真壁さん 僕はスーパーや量販店に行って、新商品の案内をしたり、スーパーのバイヤーさんと話をして、年間でビールやウィスキーをどう売っていくのか商談したり。

矢野さん 真壁選手がおっしゃっている「ラ業」について教えてください。

真壁さん もともと先輩が言っていたのですが、ラグビーが強くなるためにはメリハリがあって、仕事との相乗効果がないといけないと。サントリーは、仕事をしっかりやっている時の方が優勝していることが多いと感じます。

矢野さん どのようなモチベーションができているのでしょう?

真壁さん モチベーションもそうですが、スケジュール管理もできるので、自分のスキルアップという面もあります。ラグビーが終わった後も社会人ですし、自分の人生のためにもやっている。サントリーでは、これだけ仕事をしながらでもトップにいるというプライドがありますね。

荒木さん 廣瀬さんの「なんのために勝つのか」につながるところですよね。

矢野さん プロになりたいと思うことはあったのでしょうか?

真壁さん 一時期、日本ですごくラグビーの人気が出て、スーパーラグビーで活躍する選手が増えていた中で、ラグビーのステータスをもっともっと上げることを考えたらプロの方がいいなという感覚になりました。でも、社員のやり方でもトップでいられる。今の自分には、それがいいかなと思っています。

廣瀬さん 今は働き方もわりと自由に選べるようになってきたので、プロがいいならプロになればいいし、ラグビー選手をやりながら違うことをやってもいいと思います。そういうのが許される時代になってきて面白いと思っていますけどね。僕としては知らないことを知るのが好きですし、ワールドカップの勝利の“次”を見たい。あの衝撃を超えるものはないのかというのを、いつも追い掛けたいと思います。

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