伊勢角屋麦酒社長。1967年、伊勢市生まれ。東北大学農学部卒業後、1575年の創業以来20代続く家業の餅屋の仕事に。1994年の酒税法改正で可能となった小規模醸造、ビール造りに「伊勢角屋麦酒」として1997年に創業。レストラン経営にも乗り出すがうまく回らずどん底に。それでもビール世界一(大会優勝)を目指し、創業まもなく大会の審査員資格を取得。2003年、日本企業初の「Australian International Beer Awards」金賞を皮切りに数々の賞を受賞、世界で最も歴史あるビール審査会「The International Brewing Awards 2019」で「ペールエール」が2大会連続で金賞に輝いた。審査員として海外から招かれることも多い。
元慶應義塾大学ラグビー部主将(日本一を経験)。丸の内15丁目の発起人であり、町長としてまちびらきを担当 (三菱地所社員)。
丸の内15丁目の現場リーダー(丸の内でカフェも運営)。人々の想いをカタチにする「着地力」のプロ。
ラグビーをもっと楽しむための夢が集まる場所「丸の内15丁目」に、新たにオリジナルビールが誕生しました!
ラグビー観戦のお供といえば、やっぱりビール!ということで、15丁目メンバーが中心となり、ラグビーにちなんで、「丸の内15丁目“ラガー”ビール」を開発しました。
丸の内15丁目の新しい名物として、またラグビー観戦のマストアイテムとして成長させるべく、15丁目住民の皆さんと一緒にこのビールを育てていきたい。
そんな想いから誕生したビールです。
ビール開発の発起人となったのは、丸の内15丁目の現場リーダーであり、「Marunouchi Happ. Stand & Gallely」を運営する水代優さん。自身も元ラガーマンであり、大のビール党です。
そして、水代さんの想いを汲み取り“ラガー”ビールを実際に形にしたのは、三重県伊勢市に拠点を置くブリュワリー「伊勢角屋麦酒」の代表である鈴木成宗さんです。「伊勢角屋麦酒」は1997年創業。いわゆる「地ビール」時代から国内のクラフトビールシーンを牽引してきた先駆者で、世界の名だたるコンクールで金賞を何度も受賞してきた実力者です。
今回は、そんなお二人に、丸の内15丁目の町長を務める高田晋作さんも交えて、「丸の内15丁目”ラガー"ビール」ができるまでの物語やビールに込めた想いなどをじっくりと聞いてみました。
鈴木(以下、鈴)「そうですね。まずは乾杯しましょうか」
水代(以下、水)「はい、乾杯しましょう。ビールの色が綺麗ですね〜」
水「いやー。美味しいです。僕、美味しいとか、感動したって、食べ物を扱うプロとしては、そういう表現はなるべく避けるようにしているけど、それ以外の表現が見つからないぐらい美味しい」
鈴「うん。よく出来てますね。今回はIPL(インディアペールラガー)というスタイルのビールにしたのですが、IPLのよさがちゃんと出てる。伊勢角らしさも出てる。アロマの乗り方もいい。本当に掛け値なしにいいビールになった」
高田(以下、高)「自分はビールの素人ですが、他のビールにはない味わいというか、飲みやすさとガツンとくる香りと、両方の感じがあって、まさにずっと飲み続けられるビールって感じがします」
鈴「はい。今回、わざわざIPA(インディアペールエール)ではなくて、ラガーにしたところの良さが出てます。飲み飽きないビールになってる。飲み飽きない、飲み疲れないという難しいコンセプトの中で、ファーストインパクトがしっかりとありながらも、綺麗に消えていくビール。インパクトがあって、ちゃんと消える感じ。これは飲み疲れしないですね」
水「やっぱりそれは、2019年大会において丸の内で体験したことがすべてですね。ラグビー観戦って、1試合を楽しむ前に、その試合がある1日全体を楽しむという感覚なんですよね。試合が始まる前からずっとゴクゴクとビールを飲み続けて、試合にピークを持ってくるように楽しむスタイルに感銘を受けまして。思う存分試合を楽しんで、その後も飲み続けて1日を終えるという。1日全体を設計している感じがとても好きで。そして、そこにはずっとビールが寄り添ってる。それを2019年大会の時に自分も体験させてもらって、そのカルチャーがいいなと。それを体現するビールをラグビータウン丸の内から作りたいと思ったことがきっかけです」
鈴「やっぱりラグビーってイギリス発祥でしょ。それも関係しているよね、きっと。イギリスのパブって午前中の10時とか11時から開いていて、おじいちゃん達が、軽めのビールをその時間帯から飲み始めて、そこでダラダラ1日過ごす。1日中ビールを飲む文化がイギリスには根付いているから、それも影響しているよね。ラグビーはそもそもイギリスの文化で、その親和性があると思う」
高「ビール作りのアイデアを聞いた時は、まさに待ってました!という感じで。私は2019年より前に、海外でラグビーの大会を観る機会があったのですが、世界中のラグビーファンが集まって、ラグビーの試合を見るだけではない、その前後に、必ずビールがあって、ビールを介した社交の場というか、交流の場があって、それも含めたラグビー観戦という、ラグビー文化を目の当たりにしてきたこともあって、それを丸の内でできたらいいなと。ビールを媒介にしたラグビーのつながりが深まったらいいなと思ったので、とても楽しみな企画だと考えていました」
水「1日を通じて、ずっと飲み続けられるビールを作って欲しいと伝えました。1日通じてずっと飲み続けられるビールってなかなかない。もちろん、この食事に対してこのスタイルのビールって飲み分ける楽しさも分かりますが、今回は、朝から寝るまで、ずっと寄り添ってくれるビールが作りたくて。喉の楽しみと鼻の楽しみが両立しているようなビールですよね。伊勢角さんのビールの代表作はペールエールで、鼻から華やかな香りが抜ける感じが素敵だと思っていたので、その感覚を残しつつ、ラガービールののど越しが欲しいと。相当難しいこといいましたね(笑)」
鈴「これまでも何度か水代さんと一緒にビールを作ってきましたが、普段から水代さんが言うことって、めちゃくちゃコンセプシャルなので、自分は6割分かっていて4割は分かっていない感じ(笑)。でも、この人が言うことなら、たぶん無条件でいいことなのだろうなって直感があって、よく分からないけど、この人のいうことはやってみようと思っている。僕たちにできることは、要は飲み飽きないビールを作る。ラグビーを1日中楽しめるビールを設計するってこと。それは僕たちがビール作りのプロだからできる。それをちゃんとやろうと。醸造担当者ともディスカッションをして。自分たちが培ってきた経験の中から、いろいろ試して修正しながら、これならいけると思ったビールがこれ」
水「今回、個人的に感動しているのが、使用しているホップの品種がシトラとシムコという組み合わせだということ。そのマッチングがぐっときましたね」
鈴「クラフトビールの中では王道の組み合わせなんです。シトラとシムコは。」
水「丸の内って、ビジネスに関しても、とても王道の街、ど真ん中のことをど真ん中にやる。とても本質的な街。みな本質的なことを大事にする。そういうカルチャーがある。奇をてらった何かよりも。だから、珍しいホップの組み合わせではなくて、シトラとシムコっていう王道の組み合わせで、このビールを表現して頂いたことに勝手に感動しています」
鈴「ありがとうございます。ホップの組み合わせは本当に間違いないもの。ただ、取り組みとしては、IPL(インディアペールラガー)というビールのスタイルが、業界的にも発展途上のこれからのスタイル。そこは新しい。王道のホップの組み合わせというものを、いま一番最先端なスタイルで表現できたことが面白かった」
水「丸の内も15丁目も、共創をテーマに掲げているので、王道同士の組み合わせだけでなく、そこに最先端なフレッシュなものが合わさって、ものすごく新しいものが生まれるみたいなことを目指している。そのきっかけに、このビールがなれば嬉しい」
高「ラグビー×ビールという新たなお題に対して、プロの醸造家の方が、真剣に、面白がって、取り組んで頂いたのは本当にありがたいですね」
鈴「そうですね。うちは“イセペ”と言われるようにペールエールが看板で、ずっとエール系でいろんな醸造技術を培ってきたのですが、それを今回新たにラガーで表現するというのが、うちにとっては大きなトライでしたね。IPAはもちろん、セッションIPAとかもずっとやってきたけど、IPL(インディアペールラガー)としては、これまでほとんどやったことない。水代さんの言っていることを表現するには、そのスタイルのビールを作るしかないって思った。それはうちにとっては大きな挑戦でした」
鈴「実は僕もラグビーをやってたことがあって。大学時代は空手部だったんだけど、空手部を引退した後にラグビーチームに誘われて、少しだけラグビーをやっていた。(笑)試合もほとんど出ていないのですが、ラグビー自体は素晴らしいなって思って。みんなで、ボールをちょっとずつ前へと運んでいくという文化が楽しくて。空手にはないもの。めちゃくちゃ楽しい。終わったらノーサイド。とてもあっさりしている。その感覚が好きだった。だから今回またラグビーと巡り合わせてもらったことはとても嬉しくて。ラグビーのカルチャーを少しかじった経験があるので、その中で、ラグビーを愛する方々にとってビールがどういう立ち位置になれるのかっていうのは何となく想像できるので、とてもやりがいがありましたね」
鈴「ほんとにさっき水代さんも言っていたけど、今日はどこ対どこの試合があるぞって盛り上がって、ファン同士で飲みながら、ラグビーの会話をしながら、さらにその試合そのものを見ながら、このビールが会話の潤滑剤になってくれれば嬉しい。2023年大会もすぐ来るからね」
水「日本には丸の内以外にもラグビータウンがある。釜石、大分とか、花園、熊谷、いろいろあるので、ラグビーのお供に全国各地で飲んで欲しいですね。鈴木さんにこんなに美味しいビールを作って頂いたので、これをちゃんと広めて皆に愛されるビールにしていくのは僕の仕事だと思っているので、15丁目住民と共創しながら、大事に伝えていきたいです」
高「今後ラグビーが盛り上がっていくにつれて、街全体でラグビーに興味がある人も、興味がない人も、ちょっとだけ興味がある人も、こういうビールをきっかけに皆でラグビーの大会を楽しむ。このビールでその輪が広がっていくような。街に熱狂の場が訪れる。それをビールと一緒に作り上げたいですね」
鈴「それは泣きますね。その光景みたら僕泣くと思うな。妄想するだけでグッときちゃう」
水「やばいですよね、それ絶対実現させましょう!」
高「そんな光景はいままで見たことないから、2023年に実現できたら最高ですね」
鈴「ものづくりって、最初は自分たちが作る製品ありきなのだけど、そこから深くなっていくとお客さんが、このビールがあることで、その瞬間がどんな風に変わるのかなってところに思いが行く。このビールがある時とない時で、お客さんの感情とか、その瞬間が、何ミリぐらい高まるのだろうって、そこに意識がいく。そういったお客さんのシーンを目にするっていうのは、自分たちが一番大切にしている本物の想いが実現できた瞬間なので、何よりも感動的なのです。仲通りでそんなシーンが見れたらいいですね」
水「丸の内はもちろん、全国のラグビータウンのシンボルになっていったら嬉しいですよね」
高「ラグビーってまさにチームスポーツで。スポーツの中で一番人数が多い、15人。本当に、ひとつのチームの中でポジションによって、それぞれ求められるものが違う。どんな人にでも役割があるのが一番いいところ。それは、皆さんが暮らしている街とも親和性があると思う。今回の取り組みのように、いろんなプロフェッショナルの方と関わってビールもできたし、いろんなところでこういうアクションが生まれてくると、街づくりとしても面白いと思いますし、ラグビーの輪も街づくりの輪も両方が広がってくる。丸の内だけではなく、オンラインでも繋がっているので、本当に日本中を巻き込みながら、乾杯したり、様々な共創ができたらいいのではないかと思います」
伊勢角屋は1575年にお伊勢参りの旅人らをもてなし迎える茶屋として創業。1997年に第21代目当主であった鈴木さんが味噌と醤油の醸造技術を活かしてクラフトビール造りを開始。当初は蔵の一角で始めた醸造ですが、少しでも多くの方にビールを届けるべく規模を拡大。2018年に最先端の設備を備えた新工場を構えました。
現場で実際に丸の内15丁目ラガービールの醸造を担当したのは山宮拓馬さん。2020年に新卒で入社したばかりの期待の若手醸造家です。“ラガー”ビールのおすすめの飲み方を聞くと「大きいグラスに注いでもらって、ガっと一気に飲むのが気持ちいいビールです。のどごしが綺麗なビールなので、のどを通り抜けた後に、鼻にすっと香りが上がってくる。そこが一番おすすめ。ごくっと飲んでもらいたいですね」とのことでした。
丸の内15丁目町長の高田さんも完成を待ち侘びていた“ラガー”ビール。ごくごくと飲めるのど越しとさわやかで華やかな香りに大満足のようです。