高田晋作
(たかだしんさく)
元慶應義塾大学ラグビー部主将(日本一を経験)。丸の内15丁目の発起人であり、町長としてまちびらきを担当 (三菱地所社員)。
小国士朗
(おぐにしろう)
丸の内15丁目のプロデューサー。元NHK。
様々な事象を世の中ゴト化するプロ。
水代優
(みずしろゆう)
丸の内15丁目の現場リーダー(丸の内でカフェも運営)。人々の想いをカタチにする「着地力」のプロ。
丸の内15丁目は、2018年9月「ラグビーの新しい魅力に出会える街」をコンセプトに生まれた架空の街です。ラグビーをテーマにした様々なコンテンツであふれるこの街には、ラグビーが大好きなコアなファンも、ラグビーをまだよく知らないにわかなファンも、たくさんの人たちが集まって、ワクワクや感動を共有し、一緒になって楽しんでいます。
今回、ウェブサイトのリニューアルにともない、その誕生や歴史、イベントなどを振り返ってみようと考えました。
立ち上げに関わった3名の方々にトークしていただきます。
――まずは自己紹介をお願いします。
高田晋作(以降、高田に略)
「三菱地所の高田晋作と申します。丸の内15丁目に関して社内と社外に関わらず、いろんな方々とチームを組ませていただいています。街の成長のために頑張っております」
小国士朗(以降、小国に略)
「小国士朗といいます。肩書はフリーのプロデューサーです。丸の内15丁目の立ち上げの段階から、プロデューサー的な立場で関わらせていただいています」
水代優(以降、水代に略)
「水代優と申します。good morningsという会社の代表をやっています。街のソフトづくり、コミュニティづくりが得意です。丸の内の街のコミュニティづくりとともに、15丁目のリアルイベントも含めて、丸の内で働く皆さんとつなげる企画をやらせていただいています」
みんながラグビーを好きになれる
泥まみれの”まちづくり”
――【丸の内15丁目】が生まれた経緯を教えて下さい。
高田
「2018年4月に、三菱地所が2019年大会のスポンサーをやらせていただくことになりました。スポンサーとして会社のPRに繋げるだけではなく、日本でのラグビー人気の盛り上げに貢献したいと考えたんです。私自身、子どもの頃からプレーし、人間として成長させてもらったラグビーに何か恩返ししたいという想いが強くありました。ただ、2018年当時はまだラグビーはマイナースポーツです。どうすれば世の中に浸透するのかを悩んでいた時、真っ先に頭に浮かんだのが小国さんの顔でした」
小国
「さん付けはやめてください(笑)。高田さんはNHK時代の先輩ですから」
高田「いやいや。小国さんはなにかを“世の中ゴト化”してくれるプロです。だから、ラグビーのプロジェクトにも関わってもらおうと声をかけました。まず一緒にラグビーを観に行きましたね」
小国
「40年ぐらい生きてきて初めてのラグビー観戦でした。それまでは“ルールがややこしいスポーツ”という印象があったんですけど、実際に観てみると実にシンプルなゲームでした。むしろ難しいルールがわからないままでも楽しめるスポーツ。素直に面白いなあって思いました。あれだけ熱さを前面にむき出しで、ストレートに届けてくれるので、こちらの心が動く、胸が躍るというか、ラグビーってすげぇなって思いましたね」
高田
「そんな小国さんと友人と3人で代々木上原の居酒屋『どろまみれ』で作戦会議をした時に、その友人から“15丁目”というキーワードがポッと出たんです。『ラグビーだから15人にひっかけて15丁目みたいな街を作ったら面白いよ』と言われた。その後、小国さんが【架空の街から始まるリアルな物語】というフレーズを持ってきてくれて、メチャクチャ面白そうだなと感じました。それがスタートです。小国さん、補足をどうぞ」
小国
「パス受け取りました(笑)。僕はやっぱり三菱地所さんらしさ、三菱地所さんにしかできないことをやりたかったんです。というか、そうでなければやる意味がない。だから【15丁目】ってキーワードが『どろまみれ』で生まれた時に……」
高田
「泥まみれですからね」
小国
「まさにラグビー感満載(笑)。もう聞いた瞬間に絵が浮かびました。まちづくりこそが三菱地所さんの一番の強みなので、単発でイベントを開催するのではなく、連綿と続く営みのようなことをやっていく。三菱地所さんがずっと得意とされてきた、本業であるまちづくりになぞらえてweb上に架空の街を作って発展させる。みんながラグビーを好きになれる接点となる街です。地所さんはリアルに場所も持っていらっしゃるので、架空の街をリアルに落とし込むこともできますからね」
――たとえば『ラグビー横丁』のように、プロジェクトのネーミングにラグビーの文字が入っていないのは、なぜですか?
小国
「もし“ラグビー”の文字を入れていたら、あれだけの盛り上がりは難しかったと思います。その瞬間にターゲットが狭まってしまいますから」
高田
「もっと言うと“三菱地所”の社名も入れていません」
小国
「ラグビーを入れると、最初からラグビーが好きな人しか興味を持たないし、三菱地所って言ってしまうと三菱地所に関係ある人ばかりが集まる。そうではなくて、誰でも気軽に入れる間口を作りたかったから『丸の内15丁目』なんです」
バーチャルタウンを、
リアルな場所に着地させる
――『丸の内15丁目』をリアルな場に具現化する際に力を発揮しているのが、水代さんになるんですね?
水代
「そうですね。いろんな方々の知恵と力をお借りして実現しています。元々、僕は丸の内仲通りで『Marunouchi Happ. Stand & Gallery』というカフェの運営をさせてもらっています。ほかにも丸の内のリアルな現場で、コミュニティづくりや丸の内で働く人たちの“つながり”で新しいプロジェクトなどを日々考え、実践してきました。丸の内で働いている人たちの誇りみたいなものは、日常的にすごく感じています。高田さんたちとはこのプロジェクトの前から一緒に仕事をさせてもらっていました。今回も『僕がやれることがあったら何でもやらせてください』と話していたんです。僕自身、高校の時にラグビーをやっていましたしね。
最初に『丸の内15丁目』のお話を聞いたときから、いいコンセプトと言葉だなとメチャメチャ共感しました。僕自身、皆さんが考えた秀逸なコンセプトや素敵なアイデアを、現場でみんなが楽しくなるよう形にすることを大切にしてきました。だからこそ、強い言葉の重要性を感じます。プロジェクトがうまくいくために最低限、絶対にほしい条件って、迷った時に『振り返られる言葉』があること。逆にその言葉さえいただければ、現場に集中できます。小国さんの言葉を借りると、物事を着地させる“着地力”のプロであると自負しているところもあり……」
小国
「出た!着地力!」
水代
「自分から言ってみました(笑)。たとえば、15丁目で丸の内に『ラグビー神社』を建てました。それも大変でしたが、神社で茶会を開くイベントを開催したんです。その場合、行政との景観の調整をどうするのかとか、電気はどこから引っ張ってくるのかとか、警備員が何人いればビルの管理者が安心するのかとか、話を通す順番を間違えると企画が先に進まない……などの問題が発生するわけです。もちろん、そんな裏の苦労話はともかく、素晴らしく光り輝くコンセプトとアイデアを着地させるのが僕の仕事です。皆さんには、そんな話を知らずに楽しんでいただくのが一番ハッピーな状態なんです」
――ちなみに最近では、2020年9~11月にもカフェのイベントを開催されましたね。
水代
「ハイ。7人制ラグビーの紹介や、次回フランス大会に向けての案内、ラグビー選手とメニューを考えたりなどやらせていただきました。廣瀬俊朗さんとコラボしてリコメンドメニューを提供したりしました。廣瀬さんもそうですし、今回のプロジェクトに感謝しているのは、メンバー皆さんに“ラグビー思想”があることです。着地とか形にする部分を、こちらに投げっぱなしでもいいのに、ちゃんと一緒にスクラムを組んでくれるんです。そんな風に皆さんとプロジェクトを動かせたのは初めてだなあと思っています。コアメンバーに限らず、ほかの15丁目の皆さんもリスペクトしあって、気持ちよくボールを回してくれるので、こちらもドンドン前のめりになっていきましたね。僕自身も15丁目の住民としてもっとできることがないかなという目線で探していくというか。
このプロジェクトで皆さんが大事にしている【楕円のご縁】 という言葉があります。ラグビーボールのように転がる先がわからない不思議で素敵なご縁が広がっていくというイメージです」
小国「僕も【楕円のご縁】は痛感していますね。15丁目には『にわかファンを大切にするまちづくり』という重要なコンセプトがあります。これこそ、まさに楕円のご縁から生まれたものなんです。僕たちはコアなラグビーファンだけではなくて、沢山の人に巻き込まれてもらいたかった。それをしないかぎり、 2019年大会の盛り上がりは絶対にありません。ところが、そもそも高田さんからお話を頂いた時期は『チケットが100万枚ぐらい余るかもしれない』なんて状況でした。僕たちは熱くなっているけど、世の中にはまだラグビー人気に火が着いていませんでした」
高田「ぜんぜん燃えてなかったですよ(笑)」
”にわかファン”を大事にするまち
小国
「では、ラグビーに興味のない人をどうやってひきつけていくか。その課題に対して適切なワードを見つけられていなかったんですね。
そのヒントをくれたのが『ほぼ日』の糸井重里さんです。
2018年9月の【15丁目】のイベントで、ラグビーの胸アツ映画を見て泣ける映画館を作りたい!と話していた時、糸井さんに映画館の館長をお願いしに行ったんです。糸井さんは2015年に日本が南アフリカに勝ち、“ジャイアントキリング”をしたその試合について『ラグビーが好きになったぜ』ってつぶやいていたのを覚えていたからです。これぐらいの温度感の人に参加してもらいたいと思いました。
それで【15丁目】の相談をしたら、糸井さんが一言『これって“にわか”が一番ってことだよね』とおっしゃったんです。その言葉を聞いた瞬間に『まさにそれです』と反応しました。『にわかファンをターゲットにする』は、その会議で糸井さんがくれた言葉なんです。にわかを大事にする理由は、ほとんどの人はラグビーに興味がないという事実が大前提です。どのジャンルであれ、熱を持って頑張っている人は世の中の一部です。大概の人は興味がないので、みんながにわかなんですよね。そのにわかの人たちがどう取り込まれていくか。興味のない人たちに楽しんでもらうためにはどうしたらいいのかって考えていくようなプロジェクトにしていかないと、世の中が熱狂するようなムーブメントは生まれません」
――実際、小国さん自身もこのプロジェクトがきっかけでラグビーファンになられたんですよね?
小国
「僕なんか“スーパーにわか”ですよ(笑)。だとするならば、僕みたいな“にわかファン”がドンドン生まれていくようにする必要があったんです。そのためには、ライツ(権利)を持っている企業さんだけが発信するというスタイルよりも、なるべく多くの人がそのアクションに関われて、一緒になって盛り上げていく世界を作るほうがいい。だからこそ、【15丁目】のコンテンツは、ラグビーから入るのでなくて、どこの街にもある映画館やレストランのように、ふつうの感覚で触れられるところを接点にしています。その先にラグビーがある、みたいな感じにしようぜってコンセプトで、にわかファンが触れられるまちづくりをめざしました。
その道標を生み出してくれたのが、「ほぼ日」の糸井重里さんだったんです。そこから「ほぼ日」のメンバーの方々も面白がってくれました。ご縁があり2019年4月に丸の内で「生活のたのしみ展」を開催してくれたんです。【楕円のご縁】でつないだたくさんのチャレンジがあって、自分たちの想定を遥かに超えていくのは面白かったですね。1年間のプロジェクト数にしたらすごい数が挙げられます。報告書をまとめたときに、あまりにプロジェクト数が多すぎて、とんでもない量になりましたから(笑)」
高田
「たしかに様々な方が関わってくださいました」
水代
「それが15丁目の魅力であり、強みであると思います」
――その結果が実を結び、「にわかファン」が、流行語大賞(2019ユーキャン新語・流行語大賞)にノミネートされるまで認知され、また2020年度グッドデザイン賞においてラグビーを通じた新たなまちづくりとして「丸の内 15 丁目プロジェクト」が受賞しました。
小国
「ただし、順番を間違えないようには気をつけました。にわかファンが大切だからと言って、最初からにわかファンにだけアプローチはしていません。ホントにラグビーを愛してずっと支えてきたコアな人たちにそっぽを向かれたら終わりだと思っていましたから。そのコアなラグビーファンが『よくやってくれたね丸の内15丁目。こういうのを待ってたよ』と感じてもらえるコンテンツから始めて、段々と広げていったんです。そこからスタートして1年経って、『ラグビー神社を建てよう』って言えるわけです。もしも地道な積み重ねで信頼を築かず、コアなファンをないがしろにしていれば『ハイハイ、スポンサーだから面白おかしくやっているんでしょ』と受け取られたかもしれません」
――前編は終了します。後編では大ヒット企画「ラガー麺」の秘話や、今後の15丁目について語っていただきます。
後編はこちらからご覧いただけます。
メンバープロフィール
高田晋作
(三菱地所㈱ ビル営業部兼ラグビーマーケティング室 統括)
1978年生まれ。東京都出身。
國學院大学久我山中学高等学校から慶應義塾大学に進学。WTB(ウイング)からLO(ロック)にポジションを変え、大学時代は「魂のタックル」で創部100周年に主将としてチームの大学選手権優勝に貢献。卒業後はNHKに入局し、2005年より三菱地所に入社。現在はビル営業部とラグビーマーケティング室を兼務し、「丸の内15丁目PROJECT.」を担当。
小国士朗
(㈱小国士朗事務所 代表取締役)
1979年生まれ。香川県出身。
2003年NHK入局。「プロフェッショナル仕事の流儀」「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」などの情報系のドキュメンタリー番組を中心に制作。2013年に9か月間、社外研修制度を利用し大手広告代理店で勤務。その後、番組のプロモーションやブランディング、デジタル施策を企画立案する部署で、ディレクターなのに番組を作らない“一人広告代理店”的な働き方を始める。200万ダウンロードを記録したスマホアプリ「プロフェッショナル私の流儀」や世界1億再生を突破した動画を含むSNS向けの動画配信サービス「NHK1.5チャンネル」の編集長の他、個人的なプロジェクトとして、世界150か国に配信された、認知症の人がホールスタッフをつとめる「注文をまちがえる料理店」や“みんなの力でがんを治せる病気にするプロジェクト”「delete C」などを手掛ける。2018年6月をもってNHKを退局し、現職。
水代優
(good mornings㈱ 代表取締役)
1978年生まれ。愛媛県出身。
2002年より株式会社IDEEにてカフェやライフスタイルショップの新規出店を数多く手掛ける。2012年にgood mornings株式会社を設立。東京・丸の内や神田、日本橋浜町をはじめ、全国各地で「場づくり」を行い、地域の課題解決や付加価値を高めるプロジェクトを数多く手掛ける。「食」や「カルチャー」を軸にしたクリエイティブな空間の企画運営やメディア制作を得意とし、さまざまなコンテンツを織り交ぜ街に賑わいをつくり、地域コミュニティの拠点を創出している。現在、丸の内仲通り沿いに立地するカフェ「Marunouchi Happ. Stand & Gallery」の運営を手掛ける。